あらすじ・概要
コピーライターの著者の夫が倒れ、意識を取り戻す見込みがほとんどない植物状態になってしまった。悲しみに暮れる暇もなく、著者の生活はめまぐるしい勢いで変わっていく。介護をどこまでするかという問題、夫の家族や友人との付き合い、自分の生活の問題など、悲しみとともになんとか生きていかなければならない現実を描いたエッセイ。
介護に直面した女性の赤裸々な現実
すごく面白い作品で、どんどん読み進めてしまいました。KindleUnlimitedで読んだエッセイで一番面白かったかもしれない。
話があちこちに飛んで、作品としてはまとまりがある方ではないのですが、その分著者の正直な気持ちが伝わってきていろいろ考えさせられます。
愛していた夫が動かぬ植物状態になってしまった困惑、夫の借金の発覚、周囲の無意識の期待につい身構えてしまう自分……。
惑い葛藤し、ときに意地悪になる著者の姿は、感動的なフィクションで描かれる「夫を看病する健気な妻」とは程遠いです。しかしそういう介護者のリアルを書いた作品だからこそ、救われ癒される人はいるのではないでしょうか。
また、つらく悲しい現実だけではなく、介護の日々のささやかな救いも描かれています。
自分を支えてくれた娘のこと、目覚めない夫と還暦祝いをしたこと、同じく意識不明の家族を持つ人々との連帯感、などなど。
愛する人が死に向かっていくのを待つしかない絶望の中でも、人は何気ないことに幸せを感じ、普通の生活を送ることができます。はたから見ると残酷なようでも、それは当事者から見れば救いなのだと感じました。
どんな人も、親しい人を介護する瞬間がやってくるはずです。私もそうでしょう。この本を読んでそのときを待つ「覚悟」を持ついいきっかけになったと思います。