ファンタジーラノベの話題になると「〇〇みたいな古すぎる作品を勧めるな」みたいな話になるので、逆にこれは古すぎないかな、という作品をまとめてみました。
2015年なのはきりがいいからですが、5年に一回くらいこういう記事を書いてもいいかもしれないですね。
- 出オチかと思ったら真面目に後宮陰謀やってるしヒロインは強すぎる『大阪マダム、後宮妃になる!』
- ひとり暮らしをしたら、しゃべる家電が彼氏面をしてくる小説『家電彼氏』
- 星が人生を決める階級社会で国の中枢に乗り込み社会を変える『天球の星使い きみの祈りを守る歌』
- 杖職人が謎の素材の情報を調べて古代の真実を知る『竜と祭礼―魔法杖職人の見地から―』
- 食いしん坊の妃が、略奪婚させられてそこで生きる道を探す『流転の貴妃 或いは塞外の女王』
- 安心して頭空っぽにして読めるバディアクション『地獄に祈れ。天に堕ちろ。』
- 毒吐き転生ヒロインは必死であがいて国を救う『不思議の国のハートの女王 世界の強制力で毒吐きまくり!?おかげで破滅ルートに入りそう』
- アラサー男と悪魔娘のくっつかない食事小説『おひとりさまでした。~アラサー男は、悪魔娘と飯を食う~』
- 鎧をかぶった魔女で令嬢な乙女が王子のために大冒険『重装令嬢モアネット』
- 恋愛初心者の最強の男と女が国家の命運のためにお見合い『最強同士がお見合いした結果』
- 子羊のようなお嬢様が悪役令嬢の幽霊に取り憑かれてしまって女女バディを組む『エリスの聖杯』
- 半人外少年探偵と彼に飼われる小物青年の怪奇ミステリ『地獄くらやみ花もなき』
- 新しく引っ越してきたお隣さんは魔王でした『となりの魔王 到来編』
出オチかと思ったら真面目に後宮陰謀やってるしヒロインは強すぎる『大阪マダム、後宮妃になる!』
大阪で生まれ育ったアラサーの女が、ある日中華風の異世界に転生してしまった。さらに大金持ちの親によって後宮に送り込まれることに。商才とおせっかいの力で、後宮で一番力を持つ妃になるものの、ビジネス上の付き合いである皇帝には何か秘密があるようで……。
たこ焼きやお好み焼きを愛し、熱烈な阪神ファンであるヒロイン。リアル大阪人である私とすれば「こんな大阪の女おらんわ」とツッコんでしまうのですが、勢いの良さにだんだんリアリティなどどうでもよくなってきます。
めちゃくちゃなヒロインの設定の一方で、作品の世界観はしっかりしています。貧富の差や身分差が激しい社会で、貴族たちが陰謀を巡らせ合っている。中華風の文化の書き込みも結構細かくて、「なんちゃって」感が少ないです。中国に詳しくないのでリアリティはいかほどかわかりませんが、「ありそう」と思える描写なんですよね。
ヒロインも優しくて姉御肌だし、とにかく気持ちのいい作品でした。
ひとり暮らしをしたら、しゃべる家電が彼氏面をしてくる小説『家電彼氏』
大学進学をきっかけにひとり暮らしを始めた塔子。しかし家に置いてある、体重計や電子レンジ、掃除機が勝手にしゃべり始める。彼らは塔子の彼氏面をし出し、何かと塔子の私生活に口を出すようになる。塔子は個性豊かな家電たちに翻弄される毎日を送る。
イラストには美麗な擬人化キャラが添えられているんですが、あくまで本文中では家電は家電であり、人間の姿をしていません。
つまり塔子は文字通り家電に彼氏面をされています。
ある意味人外×人間ものだと言えるのかもしれませんが、相手が家電なのでロマンチックさのかけらもありません。塔子に彼氏っぽいものができそうになると「家電に例えるとどんな感じ?」と聞くし、機能をディスると機嫌を損ねます。
それから、主人公の塔子がありがちないい子ちゃんのキャラではなく、年相応にドジだったり愚かだったり欠点があるところが愛しいです。友達に見栄を張ってしまったり失言をしたり。人間味があって好きです。
トンチキコメディとしてはおすすめです。
星が人生を決める階級社会で国の中枢に乗り込み社会を変える『天球の星使い きみの祈りを守る歌』
星の力で魔法を使う世界。社会は星の加護を持つ「星の子」と星を持たない「星なし」の階級に分かれていた。星なしの子アステラは、育ての親のロキと暮らしていたが、仕事をしようとしても失敗ばかり。そんな折、星の子たちが学ぶ学院の入学試験に潜入すれば、本当の父親のことを教えてやるとロキに言われる。
まず面白かったところから話します。主人公はお姫様ではなく身寄りのない少女、それもおかしな不運に巻き込まれている、という出だしは魅力的でした。
また、星や星座をモチーフにした魔法世界の設定が美しく、読みながら自然ときらきら輝く風景を想像できました。星の力を借りて使う魔法、星の力がこもった宝石、設定のひとつひとつがロマンチックで楽しかったです。
階級としては底辺のヒロインが国家の中枢に乗り込み、社会を変えようとする反抗心あふれる展開もガッツがあって燃えました。
杖職人が謎の素材の情報を調べて古代の真実を知る『竜と祭礼―魔法杖職人の見地から―』
師匠を亡くした杖職人イクスの前に、杖を修理してほしいという少女ユーイが現れる。師匠の遺言によりそれを引き受けたイクスだったが、その杖に使われていたのはとんでもない素材だった。杖を修理するために、ユーイとイクスは素材の手がかりを求め、あちこち調べ回ることになった。
世界観としては魔法があって、冒険者がいて……というありがちなものなのですが、「その世界において魔法とは何か?」「なぜ社会は冒険者を必要としているのか?」という設定がしっかり用意されているところが好ましいです。
人物描写はあっさり目でキャラクターの心の内を知るシーンも少ないのですが、キャラクター同士を簡単に理解させず、「わからないことはわからない」ままで描写するのは好きでした。実際のところ人間関係ってそんなものですよね。
わかり合えなくても傷つけ合わずにいることはできるし、わかり合えないことすなわち絶望ではない、というヒロインの結論は、「共感至上主義」に疲れている私にとってはほっとするものでした。ビターな結末ではあるけれど、同時に優しさも感じる描写でした。
食いしん坊の妃が、略奪婚させられてそこで生きる道を探す『流転の貴妃 或いは塞外の女王』
皇帝の貴妃の中で一番の不美人だったことから、異民族の王に外交の道具として嫁ぐことになった柴紅玉。しかしその婚礼へと向かう途中で襲われ、略奪された先の氏族で「妻」になるはめになる。そこでめあわせられたのは、アマルという年下の少年だった。
世界観はかなり過酷で古くさく、主人公は早々に略奪婚(しかも周囲はそれが悪いと思ってない)されるし、奴隷もごろごろいます。女性は財産であり男の思惑によってやりとりされ、戦士を貴ぶ社会なので老いて役に立たなくなれば大事に扱ってもらえません。そんな容赦のない「昔の倫理」の中にありながら、ストーリーを現代的に感じるのはひとえに主人公のキャラクターゆえでしょう。
主人公は大変な食いしん坊で、話が進むほどに太っていきます。太っている主人公が痩せるのはよくあるけど太るんだ!?
しかも商人の娘でお金に詳しく、後宮では自らそろばんを叩いて商売をしていました。
ある意味少女小説のアンチテーゼ的なヒロインで、見た目は平凡とか言いながらかわいい挿絵にされたりはしないし、男よりも自分のやりたいことを選ぶし、男に頼るのも自分で自分の居場所を勝ち取ろうとします。
安心して頭空っぽにして読めるバディアクション『地獄に祈れ。天に堕ちろ。』
あの世から死者があふれ出してしまった東凶(とうきょう)。ミソギは、閻魔大王からの借金を返すために亡者を冥界に送り返している。彼は、泳(くくり)という少女を助けたことから、「魂に効く」という麻薬にまつわる陰謀に巻き込まれる。麻薬を追ってきたアッシュという聖職者と共闘する羽目になるのだが……。
頭空っぽにして読めるライトノベル。しかしながら、読み進めていくとちゃんと計算されて作られていることがわかります。キャラクターの設定と展開がかみ合っていて無駄なところがありません。
読者が気持ちよく頭空っぽになれるように、爽快感のある展開も、個性的なキャラクターも作りこまれています。さながら「最高級の駄菓子」みたいな作品です。
ストーリー自体は凝った伏線もどんでん返しもなく、王道に進んでいきます。それでもページをめくるのがとても楽しかったです。なぜなら、キャラクターの個性が物語を牽引していくからです。
毒吐き転生ヒロインは必死であがいて国を救う『不思議の国のハートの女王 世界の強制力で毒吐きまくり!?おかげで破滅ルートに入りそう』
ハートの国の女王、エリノアは自分が転生者であることを思い出した。ここはどうやら現代日本でプレイしていた乙女ゲームの世界だった。くしくも「口に出す言葉が高飛車な罵倒になってしまう呪い」にかかってしまったエリノアは、思っても見ない発言で周囲を振り回してしまう。しかし、攻略対象の帽子屋は、エリノアの味方に付いてくれて……。
転生コメディを読んでいたと思ったら、壮大な多世界のリンクについて知ってしまい、そこからギャンブル対決になった。何だこれ。
何気なく読み流していた部分が実は伏線だったり、フレーバー程度かなと思っていた「不思議の国のアリス」要素がさまざまな方向から回収されていたり、よくできたライトノベルだなあ……と感心しきり。
どんどん伏線や描写を積み上げて、終盤で盛り上げて終わる、ということが違和感なくできています。エンターテインメントだなあ。
アラサー男と悪魔娘のくっつかない食事小説『おひとりさまでした。~アラサー男は、悪魔娘と飯を食う~』
アラサーのサラリーマン誠一郎は、偶然悪魔を召喚してしまう。彼が悪魔に願ったのは、「一緒に飯を食うこと」。かくして悪魔娘リリスは、誠一郎が「誰かと飯を食いたい」と思った瞬間に現れ、彼のおごりで食事を共にするようになる。ふたりはジャンクな者から高級なものまで、食を楽しんでいく。
本当に悪魔娘とアラサー男がご飯を食べているだけで、恋愛展開はほとんどありません。ちょっとだけ好意があるかな? という描写はありますが、それだけ。
主人公はリリスをまったく性的な目で見ていなくて、ただ食事をするときの相棒とだけ認識しています。セクハラもしなければマウントもしません。
「プラトニックおにロリ(正確にはロリではないけど)」「お互いにほんのり好意はあるけどくっつかない男女コンビ」「異性同士が恋愛抜きでキャッキャウフフしている」そういう作品が好きな人にはおすすめです。
挿入される挿絵にも性的なものはなく、外で読んでも罪悪感が少ないです。
鎧をかぶった魔女で令嬢な乙女が王子のために大冒険『重装令嬢モアネット』
当時婚約者だった王子に「醜い」と言われたことで日がな一日鎧をかぶって生活するようになったモアネット。森の中で魔女として暮らしていた彼女の元に、王子と従者のパーシヴァルがやってくる。王子が不運に見舞われ続けるのはモアネットのせいであり、呪いを解いてほしいと言われるのだが、モアネットに心当たりはなく……。
作中のほとんどでモアネットは鎧をかぶっており、挿絵でもがっつり鎧です。その描写にはライトノベルというコンテンツにおける外見至上主義的展開へのアンチテーゼを感じます。
そんな外見に自信のないモアネットが、根はお人好しゆえに王子とパーシヴァルを助け、外見ではなく精神性や能力で自分自身の居場所を得ていくのは前向きで勇気づけられました。
モアネットの恋愛相手であるパーシヴァルも、最初は鎧に戸惑っていたのがどんどん「鎧でもかまわない」という態度になっていくのがほほえましかったです。
恋愛初心者の最強の男と女が国家の命運のためにお見合い『最強同士がお見合いした結果』
対立するふたつの国は、新たな脅威のために同盟関係を結び、その印として「最強」の人間同士をお見合いさせることになる……。が、その「最強」たちはとんでもない恋愛初心者だった。それぞれの国の「最強」アグニスとレファは、相手を篭絡し自分の国を有利にするため、下手な恋愛バトルを繰り広げる。
恋愛ものってどちらかがどちらかを助ける、みたいな話になりがちで、力関係が一方に偏るパターンも多いんですが、この話は「能力が対等であることに意味がある」ので面白かったです。
同じくらいの強さで、同じくらいの恋愛初心者だからこそこんなにめちゃくちゃで愉快な話になります。
相手を「(恋愛的な意味で)いいな」と思う気持ちと、「最強なので相手に負けたくない気持ち」がないまぜになってトンチキな展開になっているところに笑ってしまいます。
ラスト近くで背中合わせのふたりを見られたところもよかったです。やっぱり「最強同士」ならこういうシーンがなくっちゃ始まりませんよね!
子羊のようなお嬢様が悪役令嬢の幽霊に取り憑かれてしまって女女バディを組む『エリスの聖杯』
婚約者の浮気現場を目撃してしまったコニー。それだけならまだしも、浮気相手の意地悪に巻き込まれてしまった。そこで助けてくれたのがスカーレット。彼女は10年前に処刑された稀代の悪女だった。幽霊のスカーレットに取り憑かれてしまったコニーは、しぶしぶ彼女の復讐に付き合うことになる。
話が進むごとにどんどん登場人物が増えていくけれど、みんな個性が強くて背景も面白いので覚えられます。章ごとに登場人物を振り返ってくれるコーナーがあるのもありがたいです。
悪役令嬢が実はいいやつ……ではなく、スカーレットは本当にいけ好かない女なんですが、「そもそも貴族社会が魑魅魍魎跋扈する大変なところだよ」という話なのでスカーレットだけに嫌らしさが集中するわけではありません。みんな違ってみんなクズ!
そんな弱肉強食の社会で子羊のように弱かったコニーが、スカーレットの影響を受けてどんどんたくましくなっていくのは爽快感がありました。
半人外少年探偵と彼に飼われる小物青年の怪奇ミステリ『地獄くらやみ花もなき』
宿を失くしネットカフェを泊まり歩いていた遠野青児は、罪を犯した人間が妖怪の姿で見えてしまうという力があった。彼は不思議な館に迷い込む。そこにいたのは不思議な少年、西條皓(さいじょう・しろし)。彼は鬼の代わりに罪人を地獄へ送り込む仕事をしていた。青児は、住み込みで皓の元で働くことになった。
謎解きより雰囲気重視という感じなんですが、この雰囲気がとてもいいんですよね。「罪人に罰を与える」という設定だと単純な勧善懲悪になりそうなところを、キャラクターの人格によって上手く人間関係に深みを与えています。
人間の描き方は露悪的で、あまり気分のいいものではないのですが、それでも過去や周囲の人間関係の描写により、弱さゆえに罪を犯してしまったことが示されます。
探偵と助手の人格自体も善人とは言えず、被害者を少なくしようという意思はあるもののしゃべっていること、考えていることはツッコミどころ満載です。でもそういう善人ではないからこそ説教くさくならずに読めるのでしょうね。
新しく引っ越してきたお隣さんは魔王でした『となりの魔王 到来編』
田舎の田園地帯に暮らす夏織(かおり)の家の隣に、魔王が引っ越してきた。ファンタジー世界から抜け出たような彼に夏織は戸惑うが、地域の住民はあっさり受け入れているようで……。夏織は、ご近所さんとして魔王と付き合い、その一般人とは違う思考回路に振り回される。
のんびり読めるほのぼの日常ものでありながら、文章のクオリティがすごかったです。ラノベらしいポップな語り口で、読みやすく、ところどころのユーモアが利いている。すごく文章の上手い作家だと思います。
あらすじ自体は本当に何気ないもので、洗濯機の使い方を教えたり、流しそうめんをやったり、花火をやったり、とりたてて大きな伏線もなければどんでん返しもありません。そういう何気ない話をここまで面白く愉快に書けるのがすごいです。
やたらと古風で中二病なしゃべり方なのに案外お人好しで、子どもっぽいところもある魔王と、普通の女子高生だがツッコミ力が高くモノローグの面白さが群を抜いている夏織の、恋愛要素のない交流は本当によかったです。
以上です。興味があるものがあれば読んでみてください。