ブックワームのひとりごと

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物理的には男が救われ、精神的にはヒロインが救われる、震災後を捉え直す作品―『すずめの戸締まり』

ピアノミニアルバム 『すずめの戸締まり』 music by RADWIMPS <公式楽譜集>

 

あらすじ・概要

高校生のすずめは、ある日不思議な男性・草太に出会う、彼が不思議な扉を閉めるのを目撃したすずめは、彼が「閉じ師」として各地の地震を防いでいることを知る。しかし草太は謎の猫にいすの姿に変えられてしまい、すずめも彼を追って猫探しの旅に出ることになる。

 

エンタメ的な恋愛要素とスピリチュアルな人生の救いを同時に描いている

一目ぼれした男のために日本を縦断し、地震を鎮める旅をする女子高生。私は惚れた男のために体を張るヒロインが大好きなのですずめのことも好きです。どんな危険もなんのその、草太のためにアクションも飛び降りもこなすすずめはかっこよかったです。

恋愛ものといっても描写自体はあっさりしており、何より恋愛相手である草太がいすの姿になってしまうのでいやらしさはあまりありません。オチもさわやかでした。

 

そして男を救うけなげなヒロインの話であると同時に、東日本大震災の後の日本で生きてきたすずめの人生を振り返り、もう一度歩き出そうとする話でもあります。

震災によって母を失い、生活を失ったすずめは、地震を鎮める旅をすることで、自らの傷を癒していきます。そして過去の自分と向き合ったとき、すずめが語りかけた言葉は本当に美しかったです。

また、行方不明になったすずめを追いかけてきたおばの存在も印象的でした。すずめを思い、大切にしながらも、彼女が中盤で吐露した思いには呑まれるような凄みがありました。彼女もまた、震災に人生を狂わされた人間のひとりだったのでしょう。

この作品で救われたのは物理的には草太だけれど、精神的にはすずめなんですよね。エンタメ的な恋愛要素と、スピリチュアルな描写を通して災害からの立ち直りを描く脚本のうまさが光っていました。

 

いろんなところで言われているように、震災描写はがっつりあるのでトラウマがある人はつらいと思います。実在の災害をファンタジーで意味付けすることへ忌避感がある人もいるだろうし。

ただそういう批判があったとしても腹をくくって出そうと思った作品なんだろうな、とは感じました。