ブックワームのひとりごと

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【コンパクトに読める学びの世界】岩波新書のおすすめ本10選

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岩波新書解説総目録 1938-2019

最近量は少ないもののKindleUnlimitedに岩波新書が来ているのでコツコツ読んでいるのですが、やはり岩波新書の「当たり」率はすごいですね。読んでよかったと思える本が多いです。

今日は過去記事から岩波新書の本で面白かったものをまとめてみました。

 

 

 

ケルト時代から多文化移民社会までイギリス史をダイジェストで知る『イギリス史10講』

ユーラシア大陸の西の果て、島国として存在するイギリス。ブリテン島で暮らしていたケルト人の時代から、ノルマンコンクエストの時代、イングランド・スコットランドの確執、そして産業革命……。と、イギリスの歴史を10に分けダイジェストでお送りする新書。

いわゆる人がいっぱい死んだ野蛮な時代でも、その良しあしは脇に置き、淡々と述べてくれるところが安心できました。最近あまりグロかったり過激だったりする話題は苦手になってしまったので、クールに書いてくれて助かりました。

著者自身の意見もがっつり書かれているのは終盤の方だけなので、「意見はどうあれイギリス史を知りたい」という人には読みやすいと思います。

あと著者が映画好きなのか、「この時代のこの要素はこの映画に描かれている」というコメントがところどころにあったのも面白かったです。映画が好きな人はうれしいと思います。マイナーなのか、配信を検索しても出てこないものが多いですが……。

 

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「税金を払いたくない」という願望を巡る攻防と国際政治『タックス・ヘイブン―逃げていく税金』

個人や企業が金銭を儲けると、その一部を税金として納めなければならない。しかしその納税を回避し、社会に富を還元しない人たちがいる。その裏に存在するのはタックス・ヘイブンと呼ばれる租税回避が可能な地域。著者は税務署で働いた経験から、その問題点を指摘する。

どれだけお金を稼ごうと、どれだけ地位や名誉を得ようと、「税金を払いたくない」という願望からは逃れられないのだと思うと悲しいというよりちょっと面白くなります。優秀で理知的なふるまいをしているあの社長も、社会的な活動をしているアーティストも、税金というものの前では愚かになります。

著者が実際に国際的な舞台においてタックスヘイブンと戦い、交渉したエピソードも盛り込まれているのでリアリティが高いです。

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パブリックスクールの成り立ちとイギリス文化に与えた影響『パブリック・スクール―イギリス的紳士・淑女のつくられかた』

イギリスにおける名門寄宿学校、パブリック・スクール。何度もフィクションの題材にされてきたそれは、どのようにイギリス文化に影響を与えたのか。パブリック・スクールの始まりと発展をなぞり、現代のパブリック・スクール事情についても語る。名門学校からイギリスを見た一冊。

興味深かったのはイギリスの上流階級は「教養」をあまり重視していなかった過去があることです。大事なのは立ち振る舞いやスポーツであり、教養がないことを自慢すらしていました。漠然とイメージする「上流階級」とは全然違って驚きました。

パブリック・スクールを舞台にした小説をパブリック・スクールに通う若者たち以外が読んでいたのも面白かったです。通っているのは一部なのに、パブリック・スクール=イギリスの文化という発想はここから来ているようです。紹介されている小説も教訓的なものから、露悪的なものまでさまざま。それだけ人気のあるジャンルだったんだろうなあ。

「イギリスってこういうもの」という固定観念はどこから来たのか、の一部分が分かる本でした。

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女ことばの歴史はことばとイデオロギーの関係を表している『女ことばと日本語』

小説の中や映画の中で女性が話している「~よ、~だわ」という口調。しかしながら、この話し方をする女性は全国的に見てもそれほど多くはない。なぜ、フィクションの中でこのような話し方が流布しているのか。「女ことば」の歴史を追いながら、「ことば」が家父長制の道具となってきた事実を語る。

本のテーマは、「女ことばがいかに『作られた』ものか」ということです。東京の女性は最初から「~だわ」としゃべっていたわけではありませんでした。しかし女学生が使い始めた「~ってよ」「~だわ」という言葉が、いつしか「女性」を象徴するような話し方になり、「女ことば」としてイデオロギーに組み込まれていきます。

「標準語」という概念がそうであるように、「ことば」はイデオロギーの道具となるから怖いところがありますね。国語教育の責任は重い……。

私は「美しい日本語」という言葉が大嫌いなのですが(美しさというのは耳障りがいいだけの単語や定型文ではなく、文脈に宿るものだと思っているので)これに嫌な感じがするのはごりごりにことばをイデオロギーの道具としているからだと気づきました。

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めちゃくちゃだったゼロ年代の消費者金融事情『消費者金融―実態と救済』

長引く不況とともにはこびってきた「サラ金」、今で言う「消費者金融」。いくつものCMが流れるそれの、何が問題なのか。消費者金融によるさまざまな手口を紹介し、多重債務の作り方を語る啓発本。

この本は2002年の出版ですが、今読んでもなかなかためになります。

私が中学生ぐらいだったゼロ年代、テレビには大量に消費者金融の広告が流れ、大きな看板が「ご利用は計画的に」としゃべっていました。子ども心に「なぜこんなに金貸しの広告が流れているんだろう」と考えていましたが、この本を読んで腑に落ちました。

消費者金融は意図的に多重債務を作り出し、債務者に利子を納めさせて荒稼ぎし、そのお金でテレビに広告を出しまくる。そしてまた新たな債務者が生まれる……という悪のサイクル。これが許されていた時代があったということが驚きです。

「野蛮」というのはすぐそばにあるのだなあと再確認。

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シベリア抑留から帰ってきた父親の戦後個人史『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』

北海道の佐呂間に生まれた少年謙二は、1944年に出征する。その先でシベリアへと連れていかれ、抑留生活が始まった。著者が自身の父から人生を聞き取り、補足説明とともにまとめた個人史本。

謙二の話を読んで、当たり前と言えば当たり前なんですが、「昔の人も苦労していたんだな……」と思いました。

まず社会保障がしっかりしていないので、病気をするとすぐ困窮してしまいます。出征する前は謙二の家族に結核がはやり、戦後に謙二自身も結核にかかってしまいます。当時には特効薬がなかったので、この病気には非常に苦労しています。

また、年金もちゃんと整備されていないので、老いた親は子どもが養わなければなりません。年金のシステムもごく最近の話なんですねえ。

今ある社会制度が最初からあったわけではないと知ってはいましたが、ない状態というものが実際どういうものか、どのように人生に影響するのか知らなかったです。その部分は非常に参考になりました。

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「政教分離」は弾圧か自由か『ライシテから読む現代フランス――政治と宗教のいま』感想

国家の宗教的中立性を示す、フランスのライシテ。信仰の自由を保証する一方で、「ヴェール事件」などのムスリムの髪を隠すかっこうを否定することもある。ライシテから、フランスの宗教観や今後の展望を解説する。

興味深かったのが左派が宗教的寛容を見せるのに対して、右派が過激なほどライシテを推進することもある、ということです。

ライシテそのものが、フランスのアイデンティティと化し、「保守」のテーマの一つになっています。

まだ穏健な右派はまだしも、極右にライシテがムスリムを排斥する言い訳として使われるのはもの悲しさがあります。

こういう事例を見ると、「信仰がないこともひとつの信仰」という言葉を思い出します。大学の宗教学の先生が話していたんですが、「人は宗教を捨てたかもしれないが、『宗教っぽいもの』からは逃れられない」ということですね。

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カトリック教会に向かって「王様は裸だ」と言った人『マルティン・ルター ことばに生きた改革者』

16世紀ごろ、宗教改革のきっかけとなり、ルーテル教会の祖となったマルティン・ルター。彼の人生をたどりつつ、その思想に迫る。ルターが大きく変えた、ヨーロッパの宗教観とは……。

カトリック教会が「救済」をつかさどり、それを乱用するのが、ルターは許せませんでした。彼は聖書に立ち返り、それを読み込むことによって、救済について深く思索を重ねていきます。ルターは「九十五箇条の提題」を提出し、広く議論を呼びかけました。

彼の功績をたたえる一方で、ナチス・ドイツによる著作の歪んだ利用など、闇の部分にも言及しているところに誠意を感じます。

著者はルーテル教会系の神学校を出ている方ですが、だからといって盲目にならず、言うべきことはきちんと言っておく姿勢は素晴らしいです。

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貧困を防ぐために「溜め」を作る『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』

貧困に陥る人には「溜め」がない――。人々を絶望させるのは、金銭的貧困だけではなく、コミュニティからの断絶もある。「貧困」を捉えなおし、搾取から脱出するすべを模索する本。

「溜め」というのはため池の溜めで、困ったときに融通できる余裕のようなものとして定義されています。

カウンセリングを受けたり、自分なりにストレス発散をするのは精神的な「溜め」を作る行為だし、人間関係を維持していくのは人間関係の「溜め」を作ることでもあります。

収入が少なくても、自分なりにやりくりして、他の人の助けを借りて生きていける人は、実際のところそんなに貧困ではありません。(だからといってそういう人を助けなくていいわけではないんですが)

そこから一歩踏み込んで、世の中にはお金の管理がうまくできない人、社会から孤立して助けを借りられない人がいることを考えなければならないのだと思います。

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わからないけれどわかろうとしたい異文化『異文化理解』

世界中がグローバル化しつづける現代。それと同時に、文化の違いが争いを招いている。文化人類学者の著者が、他の文化を理解するためにどうすればいいのか、手掛かりをさがす方法を語る本。

日本はすでにさまざまな異文化を内包しています。外国からの出稼ぎはもちろん、本州の人とは微妙に出自が違うアイヌ人や沖縄の人のこともあります。

受け入れる受け入れない以前に、すでに当たり前のものとして異文化はある。それなのに、普段それを忘れがちなのは、どうにも「日本は単一的な国だ」という固定観念があるからですね。

文化人類学者は、あいまいな文化の中からなんとか言葉にできるものを見つけ出し、研究するのが仕事です。

それは日常レベルの文化交流でも一緒で、「よくわからない」異文化をどうにか「わかる」ものにしようと試行錯誤する過程こそに、異文化理解の真髄があるのではないでしょうか。

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以上です。興味があれば読んでみてください。