ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

少年はなぜ不格好なぬいぐるみをカモメだと言ったのか―宮部みゆき『小暮写眞館Ⅲ カモメの名前』

このブログには広告・アフィリエイトのリンクが含まれます。

小暮写眞館III: カモメの名前 (新潮文庫nex)

 

あらすじ・概要

フリースクールの子どもたちを写した写真にあった不格好な謎のぬいぐるみ。フリースクールの生徒のひとりは「それはカモメだ」と言い出した。英一は、その謎を解くために調べることになるのだが……。同時期に英一の家で泥棒騒動が起こり、英一は小暮写眞館の幽霊について考えることとなる。

 

真面目で優しい少年が家庭という社会に抗おうとする

クラスの人気者で優等生の少年が突然不登校に。そしてその彼が不格好なぬいぐるみを「カモメ」と評している。

真実がわかったとき、子どもの力ではどうにもならないながらも、社会のシステムに抗議しようとする生真面目さ、勇敢さがいとおしく、かっこよかったです。

大事なのはカモメの名前ではなく、システムそのものを変えること。反体制的な映画から、自分の家庭問題を見つめ直すほどの聡明さに心打たれました。

小さな男の子が世界の片隅で抗おうとしている、そんな話でした。

 

カモメの謎解きと同時に、小暮写眞館の過去も少しずつわかってきます。日中戦争の戦場で報道写真を撮っていた元店主。その幽霊はどうやら今も小暮写眞館にいるようで……。

こちらは昔の話なのでリアルな心情がわかるわけではないのですが、戦争に巻き込まれた世代の悲哀、無常観がわかるくだりでした。

 

ところで英一と不動産屋の事務員垣本の関係はこれからどうなるのでしょうか。おねショタ展開なのか? と思いつつ、個人的にはくっつかないほうが好みですね。