ブックワームのひとりごと

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ロシア人青年が星を作る仕事をして宇宙の多様性に揉まれる―メノタ『果ての星通信』

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果ての星通信1 (PASH! コミックス)

 

あらすじ・概要

海外に行き恋人にプロポーズするつもりだったロシア人のマルコは、突然全く知らない場所に連れてこられた。マルコは今日から「局員」として、10年間故郷に帰らないまま星を作る仕事をしなければならないという。恋人に再会したいマルコは、どうにか逃げ出すことを考えるが……。

 

多様で優しい世界ながらもそこから零れ落ちていく人々がいる

SFではありますが、物理法則がめちゃくちゃな設定があったり、創造神のような存在がいたりで、ファンタジックでスピリチュアルな要素が強いです。

しかしそういう理屈に合わない展開と、主人公マルコ自身の心の動きが上手く交じり合っていて、独特の世界観を醸し出していました。

 

結婚という概念がない種族、クローン技術で増える種族、中世のような文化を保っている種族など、描かれる文化は現実世界よりよほど多様です。

同時に、そんな多様な文化が認められる世界にさえ、世界のセーフティネットから零れ落ちて生きなければいけない人々がいるということも描き出しています。

キャラクターにほとんど悪い人はいないし、ほのぼのとした雰囲気ですが、展開はときにやりきれない、苦いものになります。

個人的に一番きつかったのがガカルとノッティカのエピソードでした。ただ好きな人と一緒にいたかっただけなのに地獄に落ちなければいけなかったふたりのことを考えると心が痛みます。

ガカルとノッティカのくだりはKindleUnlimitedで読める範囲に収まっているので、KindleUnlimitedユーザーで興味がある人は読んでみてください。

 

恋愛がメインの作品ではありませんが、マルコの思い人の正体には衝撃を受けました。でもあまり先入観を持たずに読んだ方がいい気がするのでどう説明するか難しいところですね……。

「世界ってすでにあなたが思っている以上に多様ですよ」というメッセージを感じました。

 

5巻しかない短い漫画ですが、世界観や人間観にどっぷりはまって濃厚な時間を過ごせました。漫画は長ければいいというものではないなあ、ということを再確認しました。