ブックワームのひとりごと

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魔者と人、血のつながらない存在同士の関係性を描く―田井ノエル『おちこぼれ退魔師の処方箋 常夜と現世の架橋』

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おちこぼれ退魔師の処方箋 ~常夜と現世の架橋~ (マイナビ出版ファン文庫)

 

あらすじ・概要

鴉との出会いから一年が経った咲楽は、常夜の生活にも順応していた。そんな中、帰宅途中で男性を襲おうとしている旧鼠を見つけた。同じころ、七色鱗という魔者から、自分の珊瑚を探してほしいという依頼を受ける。

 

血のつながらない家族を描き続けるコンテンツ

この作品は一貫して「血のつながらない関係」を重視しているのだなと思いました。人間の娘に愛着を持つ旧鼠、死にゆく人を見守りたいと望む雪女など、既存の関係性には当てはまらないような、不思議な付き合いです。

咲楽が親に疎まれ鴉に拾われる1巻から、この方向性は決まっていたのだろうと思います。あとがきの「家族が書きたい」という著者の言葉は血縁的な家族のことではありませんでした。

 

1巻では内気だった咲楽が、徐々に自分で「こうしたい」という意思を持ち、実行していくのがよかったです。かといってご都合主義的な成功は描かないのが心地いいです。

 

姉の神楽とは1巻で一旦お別れなのかと思いきや、2巻でもがっつり出てきてくれたのが面白かったです。

咲楽が成長すると同時に、神楽も神楽で新しい価値観を得て、新しい関係性を得ていきます。酒呑童子とのやりとりも感慨深かったです。「こうあるべき」おいうべき思考を捨てて、新しい関係を結ぼうとする彼女を応援したいです。