ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

【日本の問題】貧困について知りたい人のためのおすすめ本・漫画・映画28選

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訳ありの人に興味があるので、その影響で貧困にまつわる本・漫画・映画は結構見ています。

今日はその作品をまとめてみました。

 

 

 

本:ノンフィクション

 

共働き世帯が広げてしまった社会の格差『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』

「夫は外で働き、妻は家で家事」という家族モデルは、最近作られたものにすぎなかった。その形態に至るまでの家族制度の変遷を説明し、「共働き社会」になりつつある現代の問題点を整理する。女性が働く権利を得たのに、なぜ生活は楽にならないのだろうか……。

女性が職場で仕事をするようになることは、逆に格差を生むということです。共働き世帯は高収入同士が結婚する傾向があるため、女性が家事労働だけをしていた時代と比べて、「結婚によって貧困を脱出する」ということが難しくなります。

そしてその格差は子世代にも引き継がれます。

じゃあどうすればいいか、というと、著者が主張するのは「人間関係において家族の占める割合を減らす」ということ。友人や地域のサポートが受けられれば、家族を作っても作らなくても生きていくことができます。

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東京の「女性の貧困」を追う上で見えてきたもの『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』

かつてアダルトビデオや風俗のライターをしていた著者は、女性編集者と組んで東京に住む人々の貧困を取材する。風俗で働く女子大生、生活がままならないシングルマザー、障害年金で暮らす障害者など、困窮する女性たちは今何を語るのか。

登場する女性たちは、客観的に見れば明らかに間違いだろうという選択をしてしまった人も多いです。しかし著者は、アドバイスも意見もなるべくせずに語り部に徹します。

彼女たちに正論を言うことはたやすいですが、正論で解決しなかったからこそ貧困のさなかにいる。そう思わせてくれる本でした。

登場する女性にはもともと生まれ育った家庭が貧困だった人もいますが、逆に家庭が裕福なのに貧困に陥ってしまった人もいます。親から虐待や暴言を受け、実家にお金があるのはわかっているがどうしても頼りたくない、という場合です。

こういう事例を見ると、家族単位で支援をしようとする日本の福祉制度には限界があると感じます。親から子どもを自立させること、それを手助けすることも大事なのではないでしょうか。

honkuimusi.hatenablog.com

 

子どもたちの貧困のリアル『子どもの貧困連鎖』

近年深刻化する子どもの貧困。定時制高校に通う子どもたちや、保健室で給食の残りのパンをかじる小学生。彼ら彼女らに取材し、具体的な「子供の貧困」を明らかにするノンフィクション。

貧困に陥る親たちに共通しているのは、「忙しすぎて生活保護をはじめとする福祉サービスを利用する暇がない」ということ。

ダブルワークトリプルワークで疲弊し、子どもの相手をする暇もない。まさに「貧乏暇なし」なんですよね。

福祉サービスの充実ももちろんなんですが、雇った人間をできるだけ働かせてしまう会社のほうにも正直責任があります。

有休をとりやすくしたり、残業をなくしたりするだけでだいぶ違うのに。このあたりは行政だけの問題ではないと思いました。

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九州の炭鉱で働いていた人々が語る、生き延びるための物語『地の底の笑い話』

九州の炭鉱では、今では考えられないほど過酷な労働が行われ、多くの男女がそれに従事していた。仕事の合間に語られるのは、幽霊の話、怠け者の話、ケツワリ(脱走)の話。労働者がろくに守られなかった時代、使用者に支配される中で、生き延びるために語られた物語を取り上げる。

昔の虐げられた人々の話をするとき、「一方的に権力に脅かされたかわいそうな人たち」と雑にまとめてしまいがちなのですが、この本を読むと一言で炭鉱で働く人々と言ってもいろいろあることがわかります。

もちろん低賃金で危険な仕事をさせられていたのは確かですし、今こんな働かせ方をしてはいけないのですが、それはそれとして、炭鉱の人々は炭鉱での文化を作り上げていました。

炭鉱での幽霊話から、上の人間をやり込めてやったという今で言うスカッと系の話、炭鉱での性の話。

著者は炭鉱で働いていた人たちに直に聞き取り、その文化を描きます。

極限状態の中の生き生きとした人の営み、過酷な環境でもしぶとく生き延びようとする人の姿には、ある種の美しさを感じました。

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「頑張れない」「我慢ができない」子どもたちをどう助けるか『ケーキの切れない非行少年たち』

少年院の子どもたちに児童精神科医として携わった著者は、そこで反省できない、努力できない子どもたちに出会う。どうやら彼らはそもそも認知能力や知的能力が低く、自分をコントロールすることが苦手らしい。少年たちを社会に戻すために何ができるのか。模索をつづった新書。

少年院で実際に児童精神科医として働いた著者の見た、「努力ができない」「我慢ができない」子どもたちのリアルは大変興味深かったです。さらに表面的な「ほめて育てる」を否定し、きちんと子どもに必要な能力を教えるべきだという主張にはなるほどと思いました。

著者は少年院にいる子どもたちの社会性の乏しさ、認知機能の未熟さを丁寧に説明し、学校教育でそれを補っていく必要性を説きます。

ただ、小学校や中学校も「教えるべきこと」が増え続けていて、教師だけで対応するのは難しくなって来ていると感じます。

認知機能向上を目指すプロがいればいいんですけど、なかなか難しいでしょうね。

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ギャンブルにはまる人々をどう救い、社会に戻していくか『ギャンブル依存症』

日本の依存症者は20人にひとりと言われている。その中のひとつ、ギャンブル依存症はときに犯罪を引き起こし、子どもの教育に悪影響を与える危険なものだ。ギャンブル依存症の人々をいかにサポートし治療していくか、ギャンブル依存症の家庭で育った著者が解説していく。

著者は「なぜギャンブル依存になったのか、という理由探しはしなくていい」と説きます。悪者を作ってもギャンブル依存は治りません。大事なのは自助グループへの参加や家族の対応、社会の理解なのです。

ギャンブル依存症の支援施設を作ろうとすると、住民の反対運動が起きるなど、なかなか「依存症は社会の問題」と思ってもらえない事実があります。精神疾患の中でも理解を得られにくいものだと思います。

日本はギャンブル依存症の対策には後手に回っており、当事者や家族だけではなく、他の人々も対策を求めて政治に働きかける必要があるのだと思います。

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ヤクザをやめた男たちは厳しい世間にさらされる『ヤクザと介護 暴力団離脱者たちの研究』

今は介護の仕事をしている元ヤクザ。著者が聞き取った彼の半生は、犯罪と裏社会の人間関係で満ちていた。ひとりの元ヤクザの人生を語りつつ、ヤクザを離れた人々のその後を考える。暴対法によってヤクザを排除しつづける社会は、本当に安全な場所なのだろうか……。

前半の部分は方言(福岡弁かな?)を交えて語られるヤクザの社会が面白く、興味深く読みました。ヤクザのお茶くみについてのくだりはすごく面白かったです。序列が厳しいとお茶をくむのも一苦労ですね。

ピンハネや風俗への紹介、覚せい剤など、ヤクザのシノギがどんなものなのか具体的なイメージを持てたのもよかったです。普通に暮らしているだけではぴんとこないですからね。

後半は雰囲気ががらりと変わって、元ヤクザたちの未来を憂える話になってきます。暴対法によって、とにかく排除され続けるヤクザたち。組を抜けても、なかなか就職できなかったり、再就職先でいじめに遭ったりしています。著者は彼らを受け入れる場所が必要だと説きます。

犯罪者が出所した「その後」について考えさせられる話でした。

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雇用と社会保障の両輪で人々の生活を支える『生活保障 排除しない社会へ』

男性を主な労働力とし、長期雇用や女性の家事労働によって家庭を支えるのが日本の福祉モデルだった。しかしながら、雇用の崩壊によって過去の福祉システムは使えなくなっている。雇用と社会保障の関係を考えながら、すべての人への「生活保障」をいかにしてなしとげていくかを語る本。

10年前の本ではありますが、今でも十分面白く読めます。というより世の中が10年前からさほど変わっていないことに戦慄しますね。

筆者の主な主張は、雇用と社会保障を両輪として考えること。

雇用状態から「失業」「教育」「家族」「体とこころの弱まり、退職」に向けてシームレスな状態にするために、病気や障害のある人が就職できるように支援し、保育所や家事代行サービスを行い、大人になっても学べる時間を持つことが大事だと説きます。

それから、日本がどのような政策を取るべきか、海外の成功例や失敗例をもとに語っていきます。

雇用か社会保障ではなく、ふたつの概念をうまく組み合わせるのが大事だと言うことがわかりました。

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限界集落で共同生活を送るニートたちはなぜそこに集ったのか『「山奥ニート」やってます』

とある限界集落。そこで共同生活を送るニートたちがいる。家事をし、最低限の労働をする以外は、アニメを見たりゲームをして暮らしている。ニートたちのリーダー格である著者が、その生活の日々と、「山奥ニート」が発生した由来、社会への思いなどをつづる。

結局のところ、家族と暮らすより他人と暮らす方が気楽な人たちもいます。「家族と暮らすべき」という固定観念がうっすらあるせいで気づかれていないだけで。

最低限の労働をする以外は遊んで暮らしているような人々に、怒りを覚える人もいるかもしれません。生産性という概念とは真逆を行っていますし。

ただ、地域の人の仕事を手伝ったり、ブログやYouTubeを発信して他人を楽しませたりしているということは、ある意味で役に立っているわけであり、他人がとやかく言う筋合いはありません。

真似したいとは思いませんが、こういう人々が生きていくすべを見せることも貧困を考える上で大事だと思います。

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めちゃくちゃだったゼロ年代の消費者金融事情『消費者金融―実態と救済』

長引く不況とともにはこびってきた「サラ金」、今で言う「消費者金融」。いくつものCMが流れるそれの、何が問題なのか。消費者金融によるさまざまな手口を紹介し、多重債務の作り方を語る啓発本。

私が中学生ぐらいだったゼロ年代、テレビには大量に消費者金融の広告が流れ、大きな看板が「ご利用は計画的に」としゃべっていました。子ども心に「なぜこんなに金貸しの広告が流れているんだろう」と考えていましたが、この本を読んで腑に落ちました。

消費者金融は意図的に多重債務を作り出し、債務者に利子を納めさせて荒稼ぎし、そのお金でテレビに広告を出しまくる。そしてまた新たな債務者が生まれる……という悪のサイクル。これが許されていた時代があったということが驚きです。

「野蛮」というのはすぐそばにあるのだなあと再確認。

今は過払い金請求が一般的になり、消費者金融のCMもずいぶん大人しいものになりました。この本とは違う現状になってしまったので全部真に受けることはできません。しかし「そういう時代があった」という意味で興味深かったです。

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障害者の意思を尊重しつつ加害者にしない方法って何だろう『累犯障害者』

刑務所で服役した元議員の著者は、そこで犯罪を犯した障害者たちの姿を見て衝撃を受ける。著者は累犯障害者について調べることを決意し、さまざまな累犯障害者について聞き取りを行う。殺人を犯した知的障害者、売春で生計を立てていた親子二代の知的障害者、ろうあ者の暴力団など。そこには今までの福祉では助からない人々がいた

これはちょっと慎重に扱わないといけない本で、なぜかと言うと、この本を読んで「障害者は『管理』されるべきだ」と言い出す人が必ずいると思うからです。

そう言い出す人は悪い人ばかりではなくて、障害者たちを安全な場所で守ろうとする意図を持っているかもしれません。だけどその善意も危険なんですよね。

この本を読んでいて思うのが、障害のある人の「意志」って何なんだろうなということです。

知的障害のある人は、強い言葉で主張されてしまうと意に沿わない言葉でも同意してしまうことがあります。また、「人を傷つけてはいけない」というざっくりした倫理は理解できても、複雑な善悪のグラデーションを理解することは難しいです。

人の自由意志について考えてしまう本でした。

 

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介護職はなぜ不足しているのかと、日本の介護のこれから『介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか』

少子高齢化によって、介護需要は高まる一方なのに、介護の仕事をする若者は増えない。労働条件の悪さや、介護施設内での暴力、介護施設でのパワハラ・セクハラ、外国人介護職への支援の乏しさなど、現状の問題を語る。介護から見えてくる、高齢化社会の困難さとは……。

介護職の友人から愚痴をいろいろ聞いているゆえに、知っている問題も多かったですが、改めて本にまとめると気が滅入る内容が多いです。

慢性的な人手不足ゆえに、雇う人間を選ぶことができずに虐待や不適切な対応が横行し、また、パワハラ・セクハラが発生しても介護職の人間を保護する土壌がないなど、暗い内容が続きます。

本来なくてはならないはずの介護職の人々が困窮している様子は、やるせなくなります。

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日本の法律やシステムのせいで困難に立たされた外国人たち『隣人のあなた 「移民社会」日本でいま起きていること』

日本に逃れてきた難民、働きにやってきた技能実習生など、日本には様々な外国人や外国にルーツを持つ人々がいる。しかし一部の人たちは日本の法律やシステムのせいで、苦境に立たされている。困難に巻き込まれた日本に住む外国人たちを紹介し、日本社会の排他性を問い直す。

日本社会で困っている外国人の実例はきついものが多く、薄い本ながらも心が重くなりました。

世界中どこに行っても何かしらの差別はあるのでしょうし、私も外国の人を目の前にして偏見なく話せるかはわかりません。ただ、人間は弱い生き物だからこそシステムや法律の側で差別を起こりにくくするのは大事だと思います。

困窮している人々に外国人や外国をルーツにした子どもたちがいる以上、その困難も知らなければならないと思います。

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女性を守るための仕事で行われる女性搾取『官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人のリアル』

フルタイムで働いても貧しいままの人「ワーキングプア」。人々を支えるはずの行政の現場でも、ワーキングプアを産んでしまう構造があった。その被害者は主に女性である。編者自身の意見や、実際に公務員で働く女性たちの声を取り上げ、官製ワーキングプアについて考える本。

女性のための相談活動や、保育士など、女性の選択肢を増やし守るはずの仕事において「女性の搾取」が行われていることです。大きな責任が伴い、経験が必要なはずの仕事に、十分な賃金が得られていません。これは男女平等を推し進める上での大きな矛盾でしょう。

また、行政の人件費削減において、大きな役割を果たしていたのが女性パートの存在だということがわかります。正規職員を減らし、非正規職員を増やした結果、低賃金で働く女性パートが激増したのです。彼女らは最低賃金で働き、不要になったら夫や家庭に返せばいい……そういう思想が見え隠れします。

編者たちの意見も、当事者である公務員女性の声も、現場をよく知っているからこそ書けるものでした。強い現実味と、悲しさを覚えます。

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政府組織の中で反貧困を唱え続ける『闇の中に光を見いだす 貧困・自殺の現場から』

自殺対策に関わってきた清水康之と、貧困対策に関わってきた湯浅誠。政府の貧困政策のこれまでとこれからについて、対談形式で語り合う。政府内部から貧困・自殺の政策を打ち出そうとしてわかったことは、官僚や政治家たちの貧困への理解のなさだった。

活動家が政府と関わるとき、「政府と関わって牙を抜かれてしまった」ということを言う人はいますが、それだけでは語れないような事情があることがわかります。

地方分権の中で政府の中で改革をしようとしても自治体がついてきてくれないことも多々あります。

福祉の現場にいるはずの自治体職員に、貧困への理解がなく、当事者を傷つけたり排除しようとしてしまう。心が重くなる話でした。

語られていることは厳しい現実ばかりですが、著者ふたりが絶望しておらず、前を向いて活動をしていることは救いです。

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本:フィクション

 

図書委員男子ふたりの謎解きと繊細な友情『本と鍵の季節』

「僕」こと堀川と松倉は、図書委員の高校生。堀川は、松倉と一緒に学校や町で起こる小さな謎を解いていくこととなる。開かずの金庫の鍵を開け、自殺した学生が読んでいた本を探すなどするうちに、堀川は松倉の態度に違和感を持つ。やがて松倉の抱えている謎を知ったとき、堀川は……。

「僕」こと堀川と、松倉は図書委員同士の友人です。堀川と松倉は、身の回りで起きた事件を解決していきます。

その課程で、松倉はどうやら倫理観がおかしいところが露になってきます。そして終盤、松倉の身の上が明かされるとき、堀川と松倉のどうしようもない違いと、それでも取り返しのつかないことはしないでほしい、という堀川の願いが描かれます。

作中でお金がない家庭の子どもと、そうではない家庭の子どもの関係が描かれます。完全に分かり合うことができないのは前提でも、何かをしたいと思ってしまうことに切なさを感じました。

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異常なのは主人公か、それとも世界か『コンビニ人間』

18年間コンビニ店員を続けていた女性、古倉。彼女はコンビニでしか生きていけなかった。そんな中、彼女のいるコンビニに白羽というアルバイトの男がやってくる。他人を見下し、周囲に攻撃的な彼と、古倉はある取引をすることになる

人とのコミュニケーションに難があり、コンビニでしか働けない主人公。

しかし彼女は自分の食い扶持は稼いでいるし、穏やかな生活を望んでいるので進んで人を傷つけたいとも思っていません(持ち前のサイコパスっぷりで引かれることはよくあるけれど)。

そういう主人公を、家族や仕事仲間などの周囲は、「人と同じ人生を歩んでいないから」という理由で生活に干渉し、「正しい」人として型にはめようとします。

普通じゃない生き方を許さない世の中について、考えこんでしまう作品です。

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不良少女の漫画を手伝うはめになってしまったけど彼女の夢を応援したくなった『スイレン・グラフティ わたしとあの娘のナイショの同居』

多忙な母親を持ち、双子の弟妹の世話をしながら生活している彗花は、クラスメイトの不良少女、蓮が漫画を描いていることを知ってしまう。さらに彼女の原稿用紙を双子が汚してしまい、彗花は償いとして蓮の新人賞応募を手伝うことに。原稿をしているうちに、蓮と彗花は心を通わせていく。

見どころは彗花と蓮の関係性です。安易に「それっぽくエモい」描写に頼らず、丁寧に違った境遇や価値観を持つふたりが仲良くなっていく描写を積み重ねていきます。

漫画を描く、食事をするなど、内容としてはかなり地味なシーンが多いのに、ストーリーや描かれる心理がきちんとしているから気になりません。

彗花も蓮も、少し変わった家庭事情を抱えており、そのことがストーリーに影を落としています。子ども同士が助け合う姿はかわいらしいですが、かわいらしいでは済まされないとも思います。(そして切実な問題もちゃんと描かれています)

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漫画:コミックエッセイ

 

訪問看護師は精神疾患の人々を訪ね手助けをする『おとずれナース~精神科訪問看護とこころの記憶~』

著者は精神科訪問看護の仕事をしている。精神疾患を持つ人々の家を訪ね、薬の管理をしたり相談に乗ったり、状況に応じて使えるサービスを紹介する仕事だ。彼女が出会うのは、さまざまな事情を抱えた患者たちだった。著者の経験をもとに、改変したフィクション。

経験をもとにしたフィクションということで、出てくる患者たちは複数の人のエピソードを混ぜたり身元がわからないくらいに改変して出しているのだと思います。しかしプロだからこそあって、出てくるエピソードにはリアリティがあります。

それでいて、語り口自体は優しく丁寧なので、つらいシーンがあってもそれほど悲しくならずに読めました。

精神疾患と貧困の問題は深く関連しているので、貧困について知りたい方には触れてほしいトピックです。

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お金の管理が苦手な妻のためにシステムを変えたら経済状況が好転した『お金オンチ夫婦 借金500万からのビンボー脱出大作戦』

妻のリボ払いでの失敗を漫画にしたことをきっかけに、家庭の経済状況を改善する漫画を依頼された著者。ファイナンシャルプランナーと協力して工夫しようとするも、肝心の妻は乗り気ではなく……。しかしアイデアを実行していくうちに、夫婦は金銭管理を身に着け始める。

この家庭には救われるものがありました。お金の管理ができないならシステムの方を変え、管理しやすくしてあげる。自力でできることもあると気づけば、家族の自尊心を傷つけることなく状況を改善できます。

借金500万円というとどんな無駄遣いをしたんだという話になりますが、内訳は奨学金、年金や税金の滞納など、普通の人でもうっかり持ってしまいがちな負債です。

そして借金は「長く付き合うもの」という言葉に目からうろこでした。急いで返すのではなく、手元にお金が残るように少しずつ返していくというのがなるほどと思いました。

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貧困母子家庭で育った著者の実録貧乏生活『明日食べる米がない!~親が離婚したら、お金どころかなーんにもなくなりました!!~』

両親が離婚し、小さなアパートの一室に引っ越してきた著者と母親。母子家庭でお金がなく、父親からの養育費もしっかり支払われない。ときに食べるものがないほどの貧困に襲われ、著者は日々悩む。お金がないせいで友達付き合いもうまくいかないことが多く……。

お金がないことをなかなか友達に言い出せなくてこそこそしてしまう、同じ母子家庭でも親類縁者のサポートがあるかないかで違う、などなど、貧困家庭の切実な現実が描かれています。

著者も母親も不器用なタイプで、アルバイトを掛け持ちして長く働けなかったり、ストレスですぐ仕事を辞めたりしてしまいます。これは読んでる私もそういうタイプなので「甘え」なんて安易に言えないですね。

著者の母親ははたから見ると頼りない母親で、どうかと思うんですが、母親の明るさや前向きさに著者が救われていた面もあるんですよね。

腹が立つ面もありつつ、他人がそこを否定するのもどうかと思ってしまう本でした。

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普通になれない私はメンズエステで心をすり減らしながら働いている『メンズエステ嬢の居場所はこの社会にありますか?』

両親が実家を引き払い引っ越すことになり、突然ひとり暮らしをしなければならなくなった著者。今のアルバイトでは暮らしていけない。生活費を稼ぐため、たどり着いたのはメンズエステの世界だった。露出度の高い服装で男性にマッサージを施すメンズエステは、風俗と普通の仕事のグレーゾーンにあたる仕事だった。

そして何より印象的だったのが、メンズエステで働いている女性たちが自分に自信がなく、「ふつう」になれずに苦しんでいるという事実です。

人が当たり前にできることが自分にはできない。劣等感にさいなまれ、ぼろぼろになりながらも、それでも過酷で残酷なこの仕事しかできることがない。登場する女性たちはみんなどこか欠けています。

私はこういう仕事はやったことはないけれど、「ふつう」になれずに苦しんだ記憶はあるので、読むたびに苦しい気持ちを思い出してしまいました。

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漫画:フィクション

 

ひどい話で身につまされたけれど肯定された気がした『ご飯は私を裏切らない』

中卒、29歳。派遣のアルバイトを転々とし、何とか食いつないでいる主人公。そんな主人公の楽しみは、食べること。いくらをトーストに乗せたり、パウチのおかゆを袋のまま食べたり。料理をし、食べながらぐるぐると思考は回る。食事を通して底辺貧困女性の生活を描く。

主人公は中卒の派遣アルバイターで、様々な職を転々としています。頑張って働こうとしても、ミスを繰り返し、いつもうまくいきません。派遣という職を選んでいるのも、「短期の仕事の方が自分のぼろが出ないから」という理由です。

とはいえ、この作品が描くのは、悲しみだけではありません。

人が当たり前にできることが、自分にはできない。その絶望を描きながらも、そこで終わらず、「まあそういうだめな人間だってなんとか生きていってご飯食べていいよね」という肯定があります。

そのために「食」を主題にするのは大正解でしょう。食べることは生きることの根幹ですし、自分は生きていてもいい、と思えないと前に進めませんからね。

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いろんな意味で現代では描けない作品『銭ゲバ』

貧しさゆえに病気になった母親を失った蒲郡風太郎は、「金さえあれば何でもできる」と金に強い執着を持つようになる。お金ほしさに殺人などの犯罪行為も厭わず、ついに大企業の社長になる。しかし風太郎の周りに不審な死が多いことに気付く者が現れ始めて……。

貧困ゆえの執着を描く漫画。「時代の文化」というものを感じる作品で、興味深い漫画です。

この漫画ではどんどん発展していく日本が描かれ、風太郎が成り上がれたのも社会全体の豊かさが増していく状況に上手く乗れたからでしょう。

その一方で、この作品で扱われている公害問題だとか、学生運動だとか、発展に取り残された、あるいは犠牲となったと感じている人々も多くいたのだと思います。

現在ではあのころの豊かさばかり強調されますが、豊かさの中で悩んでいた人も多かったのかもしれないなと感じました。

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銭ゲバ 大合本 全4巻収録

銭ゲバ 大合本 全4巻収録

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映画

 

病気の高齢者とシングルマザーが助け合うけどやっぱり限界がある『わたしは、ダニエル・ブレイク』

ダニエル・ブレイクは大工だったが、心臓病によって医者から働くことを止められた。しかしダニエルは役所からは「就労可能」と見なされ、支給金目当てにしたくもない就職活動をするはめになる。そんな折に出会ったシングルマザー、ケイティとともに、どうにか貧困から抜け出そうとあがくのだが……。

ケイティとダニエルは困難の中で心を通わせます。ダニエルはケイティの子どもたちの面倒を見てケイティを支えますし、ケイティは高齢で現代的知識がないケイティをサポートします。しかしそれでは足らない。この作品における行政があまりにも杓子行儀で、セーフティネットから零れ落ちた人に対して冷淡だからです。

公務員が身内にいる身からすると、福祉の前線で働いている人に悪気があるわけじゃないと言いたいんですが、セーフティネットから零れ落ちた人を目の前にしてシステムを変えないことはやっぱり責任があります。

作品には理不尽への怒りが満ちていますが、話の運び方自体は淡々としています。ダニエルが怒りをあらわにするシーンや、フードバンクで泣くケイティのシーンでさえ、演出自体は音楽も動画の切り取り方も静かでした。

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赤ん坊を売るブローカーと赤ん坊の母親との間に奇妙な絆が生まれる『ベイビー・ブローカー』

赤ちゃんポストに捨てられた赤ん坊を養子がほしい夫婦に売っている、ブローカーの男ふたり。ひとりの男の赤ん坊を売ろうとしたところ、その母親に人身売買の旅へついてこられることとなる。三人が赤ん坊を世話しながら旅をするうちに、奇妙な絆が生まれ始める。

人生の苦難や大きな過ちの中でも、ひとりの赤ん坊を中心に、「誰かを愛したい、心の支えを得たい」という感情を登場人物たちが持っていくのがよかったです。

人間、愛されたいのと同じくらい「愛したい」という願望もあるものだよね、と思いました。

赤ん坊を捨てるという行為が許されるわけではないですが、その後ろに貧困や女性搾取の構造があり、それを知ることによって分断を乗り越えようとする作品でした。

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12歳の不良少年たちが死体を探して線路をたどる『スタンド・バイ・ミー』

12歳の悪ガキ四人組は、森の中に行方不明の少年の死体があることを知り、それを発見しようと線路をたどる冒険を始める。死体を発見すれば街のヒーローになれる。主人公ゴーティは物語を書く才能を持ちつつも、自分自身に自信が持てないでいた。友人のクリスは彼を励まし、作家になる夢を諦めないよう助言する。

12歳くらいというのは、自分の進路を考え始める時代です。頭のいい子も悪い子も分け隔てなく遊んでいた時期から、何となく知力でグループが分かれていく時代。否応なく自分の実力に向き合わざるを得なくなっていきます。

この作品は分かれ道にたどり着いた少年たちの物語でした。

エモいなんていう陳腐な言葉で表したくはありません。これは人間の間にある格差を描いています。

でも格差の中でもちゃんと友情があったという事実は、美しいものです。

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虐げられた少女の一発逆転と、本当の高貴さとは何かというメッセージ『コンフィデンスマンJP プリンセス編』


世界有数の大富豪レイモンド・フウが亡くなり、その遺産は行方の分からない末の子ミシェルが相続することになった。詐欺師のダー子はスリの片棒を担がせられていた少女、コックリをミシェルに仕立て上げ、レイモンドの子どもたちから手切れ金を要求することを思いつく。しかしダー子とコックリは本物のミシェルとその母として軟禁されてしまい……。

わかりやすいシンデレラストーリーですが、話が進むにつれて「本当の高貴さとは何か」という問題を扱っていくのが現代らしさを感じました。

ただ虐げられた子どもだったヒロインのコックリが、フウ家に軟禁され教育を受けさせられていくうちに、自分に自信を持ち意思を獲得していきます。

彼女の獲得した能力が花開き、自分の意思でどうするか選択した瞬間、「彼女は本当の高貴さを獲得したのだ」と納得しました。

現実の社会は貧富の差が逆転することなどそうなく、貧しい人たちは日々苦しんで生きています。だからこそ、「とある悪党が貧富の差を逆転してくれる」話が美しく感じるのでしょう。

元気の出るエンターテインメントで面白かったです。

 

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以上です。興味があれば読んでみてください。