あらすじ・概要
ろう者の世界を想像するときに、つい「聞こえなくてかわいそう」という思考になってしまう。しかし著者がろう者の世界に飛び込んだところ、そこでは豊かなコミュニケーションがなされていた。ろう者のための言語、手話を紹介しつつ、健常者とろう者が楽しく共存する社会を探る。
相手の文化を劣っていると見なさないように研究する
ろうの人が独自の文化を築いていることは知っていましたが、改めて調べた内容を聞くと聴者との価値観の違いに驚かされます。
著者は文化人類学者で、文化としてのろう者のことばや生活について研究しています。
たとえば研究発表や公演のとき、拍手の代わりにひらひらと手を振って歓迎や好意を示したり、ぱちぱちと証明を点滅させて公演の始まりを示すなど、聴者には存在し得ない暗黙の了解があります。
また、多くの国ではその国独自の手話がありますが、植民地時代の宗主国の影響を受けたり、その国ででろう者の支援を始めた人が外国人だったのでその出身国の影響を受けたりしています。聴者の言葉の広がり方と、ろう者の言葉の広がり方は異なります。
最後の方には聴者がろうの人たちとどう付き合っていくといいのか? ということが語られます。
決してやってはいけないことは、「ろうの人の文化は聴者の文化より劣っている」と決めつけることです。もちろんろうの人にはハンディキャップがありますが、彼らの生活や文化が普通の人たちより劣っているわけではないのです。
この本ではろう者の話ではありますが、さまざまなマイノリティへの態度としても参考になる話でした。