まず、能登半島での地震被害に遭われた方に、お悔やみを申し上げます。
寄付はできる範囲でするとして、読書ブロガーとしてできることを考えたとき、災害関連の本を紹介するのがいいのではないかと思いました。
SNSでの発信は、拡散力が高い一方で、あまりにも感情的な意見がバズってしまいます。そういう情報だけでは、災害に関する発信を見るだけで嫌になってしまう人もいると思います。
本がいつでも正しいとは限りませんが、自分のペースで読めるので異なる価値観に触れられるので、その辺は楽なのではないでしょうか。そう思って書きました。
災害下の体験記
『三宅島島民たちの一年』三谷彰
2000年6月に噴火した三宅島。住民たちは、どのようにして全島避難に至ったのか。噴火直後の混乱や、行政の不手際、住民同士の反発、そして避難後の生活をコンパクトにまとめる。ケアワーカーの人が三宅島噴火の姿を描く。
印象的だったのが行政の対応が後手後手に回り、住民に先んじた判断ができなかったことです。防災訓練はやっていたのに、いざとなったら頼りになりません。全島避難の決断に至るまでも迷走しています。
どれだけ訓練をしていても、実際に頼りになるかはそのときになってみないとわからないのですね。
庭木に降ってきた大量の灰を棒で叩き落したり、爆発的な噴火の瞬間に出会ったり、現地の人でないと語れない火山のすさまじさも語られていました。日本は火山だらけなので、どこかで似たような噴火が起こる可能性があります。地震についてのルポは多いですが、火山についてのそれは少ないので、興味深かったです。
『関東大震災と流言 水島爾保布 発禁版体験記を読む』前田恭二 編著
関東大震災で大きな被害を受けた東京。画家,文筆家であった水島爾保布は地震発生直後から、デマや流言に惑わされる人々の姿を書き残していた。災害による混乱、恐怖。そして朝鮮人や、朝鮮人に間違われた人たちの虐殺が発生する。関東大震災の一次資料を読み解く本。
関東大震災の一次資料、つまりは当時の人が書き連ねた文章を現代の学者が解説している本です。旧かな遣いで読みづらいですが。解説を読みながらであればなんとか理解できます。
関東大震災では、多くの朝鮮人が虐殺されました。この行為は、当時の倫理観としても残虐な行為であり、さまざまな文献で批判が残されています。
一方で、虐殺を肯定し、都合のいいように解釈する人々もいます。人間の善と悪を一冊で読んだような気がしました。
その上、朝鮮人たちが関東大震災の前から過酷な差別にさらされており、心が痛みました。
つらい話ではありますが、後世に教訓を残さなければならない話題です。
『神戸難民日誌』津村喬
神戸の埋め立て地、ポートアイランドに暮らしていた著者は、阪神大震災を経験する。当時の神戸の雰囲気、人々の姿を文筆家の立場から語る。被災者から見た、震災後の神戸の希望とは。
良いところも悪いところもある本でした。同時に当時の人しか書けない内容で、資料としての価値が高いです。
文筆家である著者は、阪神大震災以後について詳細な日記を残していました。その日記をまとめた本です。
著者が暮らしていたのは神戸のポートアイランド周辺で、被害の少ないほうでした。文章中では食料に困った様子もありません。
少し被害が少ないだけで、こんなにも変わるのかと驚きました。
著者は、災害の被害に心を痛めると同時に、うっとりとロマンチックな感情に浸ることがあります。、それが生々しかったです。
災害時、過酷な現実を目の前にして、心が高揚して周囲が美しく見えてしまうのを災害ハネムーンと呼びます。著者もそういう状態だったのかもしれません。
『被災地・神戸に生きる人びと 相談室から見た七年間』牧秀一
阪神大震災から七年後、相談室で被災者が語ったことを元に、復興と被災者の心について振り返る。人間関係のこと、住まいのこと、町並みや仕事のこと……。被災者のリアルを描く本。
阪神大震災から七年後の神戸。そこに生きる人たちの悩みや葛藤を具体的なエピソードとともに語ります。
専門的な話というより読み物という感じですが、取っつきやすい内容だと思います。
災害対応における行政のミスも書かれています。
災害が起こったあと、「がんばって復興しよう」という流れになります。実際に、街の復興を心の支えにする人もいるので、安易に否定できるものではありません。
一方で、明るく前向きな復興ムードについていけない人もいます。明るい態度でいることを強いられるのは、同調圧力でしょう。そういうムードについていけない人もいることを知っておきたいです。
災害とメンタルヘルス
『ギャンブル大国ニッポン』古川美穂
出口の見えない生活の中、パチンコにハマっていく東日本大震災の被災者たち。人は心が弱ったとき、依存症に陥りやすい。著者は日本のパチンコ政策への矛盾や、パチンコへ行くことの容易さの点を指摘する。ギャンブル依存症が多い国として、ギャンブルへの対策は必須のものである。
この本は、東日本大震災の被災者がギャンブル依存になってしまった話題から始まりました。ギャンブル依存と社会の関係について考えさせられます。
東日本大震災の被災者たちは、復興を目指しながらも強いストレスにさらされています。そこでストレス解消をしてくれるギャンブルにはまり、家庭を崩壊させる人すらいました。
日本中どこにでもあるパチンコ屋の存在が依存に拍車をかけます。仮設住宅の近くにもあったことに驚きました。
韓国にもメダルチギと呼ばれるパチンコに似たギャンブルがあったそうなのですが、法改正によって実質運営できなくなったようです。この辺り、日本の政策は遅れています?
また、「パチンコは違法である」ということを証明しようとする日本の弁護士もいて、パチンコ問題は重要な社会における重要なテーマなのだなと感じます。
『震災トラウマと復興ストレス』宮地尚子
東日本大震災によって、被災者は多くのトラウマを受けた。そして、被災者だけではなく、医療従事者や自衛隊、被災者を助ける慈善団体、直接被害を受けなかった人たちも……。災害のトラウマを大きな枠組みで見直し、社会が災害のトラウマと付き合っていく方法を模索する。
本の中に登場する、トラウマはどれも苦しいものです。
大災害と言うショッキングなできごとに対して、社会は否応なく反応せずにはいられません。買い占めによって人間の弱さを知ってしまったり、支援者が被災者になじられてショックを受けてしまったり、被災者自身も幸せになることに罪悪感を覚えてしまったり……。
心は一様ではなく、だからこそ「頑張ろう」「復興を目指そう」という言葉に共感できなくなることもあります。もちろん復興は行わなければなりません。しかし、それに置いていかれてしまう人たちも多いです。
ポジティブになれない人たちを孤立させず、どう社会に受け入れていくか。人の違いを受け入れることは大事です。同じ考えになることは必ずしも幸せではないということなのでしょう。
『大災害と子どもの心 どう向き合い支えるか』冨永良喜
3.11を始めとする、災害は子どもの心に何をもたらしたのか。被災地に心のケア要員として向かった人々の視点で、トラウマや親しい人の死の受容について考える。傷ついた子どもたちの具体的なケアの内容とは。
トラウマのケアは、つらい過去を思い出さなくなるのが目標ではなく、ときに思い出して悲しくなっても、前向きに生をできることを目標にしています。
過去を悲しむ時間と、人生を楽しむ時間を分け、悲しみを抱えていても生きていける、という自信が人を強くするのでしょう。
トラウマを抱えた子どもたちのことを思うと胸が痛みますが、それでも生きていこうとする試みには、人の強さを感じます。
復興支援
『キャッシュ・フォー・ワーク 震災復興の新しいしくみ』永松慎吾
災害のとき、どのようにして被災者を助けるべきか……。著者が紹介するのはキャッシュ・フォー・ワークと呼ばれる概念だ。被災者に復興のための作業をしてもらい、給料を発生させることによって被災者を支える。その歴史や東日本大震災での実践についても述べる。
キャッシュ・フォー・ワークとは、「被災者に復興のための仕事をしてもらい、それにお金を払う」ということ。がれきの撤去や土木作業、復興のための小物づくり、遺品の創作など、本の中ではさまざまなキャッシュ・フォー・ワークが紹介されます。
賃金によって被災者を支えるとともに、「自分の手で復興した」という実感が被災者たちの心を回復させます。その展開が面白かったです。
キャッシュ・フォー・ワークも万能ではなく、場合によっては被災者がキャッシュ・フォー・ワークに依存してしまうこともあります。キャッシュ・フォー・ワークの賃金がその社会の相場より高いと、住民はキャッシュ・フォー・ワークが撤退することを嫌がります。賃金には繊細な検討が必要になります。万能薬ではないが、検討すべき手段であるということでしょうか。
災害に伴う人災
『終わりなきアスベスト災害 地震大国日本への警告』宮本憲一・森永謙二・石原一彦編集
強い健康被害をもたらす鉱物、アスベスト。しかしその便利さから、危険性が判明した後も使用され続けてきた。神戸における阪神・淡路大震災にともなうアスベスト被害を中心に、アスベスト災害への反省とこれからすべきことを考える。
阪神・淡路大震災の神戸におけるアスベスト被害について書かれています。なんとなく体に悪い物質ということはわかっていましたが、対応が後手後手に回っているのが何とも言えないですね。
アスベストの危険性を知りながら、その説明や防塵対策をせずに現場へ送り込む側のずさんさ。
神戸だけではなく、世界同時多発テロで崩れたビルの下でもアスベスト被害が出ていました。緊急時だから、と言っても、健康被害を受けた人の慰めにはならないでしょう。
ともあれ起こったことより、起こったことを踏まえて今後何をするか考えるのが大事だと思います。いまだ日本に残るアスベストをどう処理するか。そしてアスベストの規制がきちんと行われていない一部の国についてどうするか、話し合わなければなりません。
『災害支援に女性の視点を!』竹信三恵子・赤石千衣子編
東日本大震災の被災地で、女性はどう暮らし、どんな困難に直面したのか。実際のトラブル、問題を取り上げ、被災地の女性にどのような助けが必要か考える。女性の問題から、災害弱者の問題も見えてくる。
性暴力や女性向けの物資の不十分さは、わかりやすい問題ではあります。
恐ろしかったのは、災害が落ち着いたあと、復興支援としてなされる活動が男性の雇用ありきだったことです。女性を支援する団体は、これでは被災者の女性の年収が下がってしまうと悲鳴を上げます。
女性が働けないと男性への依存が強まります。女性が自由な選択をすることが難しくなります。また、シングルマザーや独身女性の貧困に対応できなくなります。
月並みな言葉ではありますが、やはりきちんと人々が被災者のその後に関心を持たなければなりません。関心があればメディアが取り上げることも増えるでしょう。
能登半島地震の今後の参考にもなる、興味深い本でした。
以上です。興味があれば読んでみてください。