ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

狂気を感じる漫画おすすめ20選 世界観・執着・自己の同一性

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今日のまとめは、

狂気を感じる小説のまとめが今でも安定したPVを稼いでいるので、その姉妹編として書きました。

 

 


異様な世界観

『有害無罪玩具』詩野うら

有害無罪玩具 (ビームコミックス)

博物館にやってきた女性。職員が取り出し説明するのは、不思議なおもちゃたち。命を持つシャボン玉、未来に描く絵を出力する機械、並行世界を覗けるバッジ。それらのおもちゃを使ってみるたびに、奇妙な感覚に襲われる。表題作ほか、不安と懐かしさが混在するSF短編集。

作風としてはSFと民俗学と日常が交じり合ったような雰囲気で、はっきりした構成やドラマ性がなくオチも意味深に終わってしまうものが多いです。

でもその得体の知れなさがそれぞれの短編のテーマと非常に合っていてどんどん読み進められてしまいます。

『有罪無罪玩具』は不思議なおもちゃを収蔵するミュージアムを描いた表題作。

取るに足らない、何気ない不思議なおもちゃのはずなのに、その存在は不安をかき立ててしまう。その不穏さが最高に楽しいですね。 

 女性と職員の会話そのものもうっすら気味悪くて好きです。

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『かんかん橋をわたって』草野誼

かんかん橋をわたって (1) (ぶんか社コミックス)

三つの地区に分かれている町で、川南(かーなみ)から川東(かわっと)へ嫁いできた渋沢萌。優しい夫とともに、嫁として毎日頑張っているが、どこかうまくいかない。そんな折、萌は自分の姑が「川東一のおこんじょう(意地悪)」と呼ばれていることを知る。自分の家族を信じたい萌はそれを否定するのだが……。

最初のあらすじだけ見ればどろどろ嫁姑戦争だし、実際その要素もふんだんにあるんですけれど、それだけでは終わらない漫画です。めちゃくちゃ面白いけどカテゴリ分けがしづらい。

読み進めているうちに川東には「嫁姑番付」なるランキングが存在することが判明。その辺からツッコミどころが多くなってきますが、物語は気にせずどんどん進行していきます。そしてついには、川東を覆っている悪しき文化、その文化を創り出しているラスボスと対決することになります。嫁姑漫画ってこんなに壮大でしたっけ?

説明してしまうとイロモノなだけみたいに思われるかもしれないですが、とにかく漫画がうまくて、もっと読みたい、結末が知りたいという一心でどんどん読み進められます。

読み終わっても「変な漫画だったな……」としばらくぽかんとしてしまう漫画でした。

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『死んだ彼氏の脳味噌の話』Ququ

死んだ彼氏の脳味噌の話 (コミックエッセイ)

脳に関する技術を提供する会社、「ブレブレブレイン」。死んだ人間の脳みそを最愛の人に届けるサービス、暴力的な子どもをいい子にする機械、「彼を大好きだったあの日」に戻れる薬。彼らの技術は人々の心に波を起こし、否応なく自分自身と向き合わされてしまう……SF連作短編。

どれほどテクノロジーが発達し、人の心を操れるようになっても、自分の心を救うのは自分だけなのでしょう。

連作短編に登場する技術を作り出した女性研究者はサイコパスで、人の心が根本的にわからない人間なのですが、最後まで読むと彼女が少しかわいそうになってきます。彼女もまた自分の心を自分で救うすべがわからない人です。だからこそ倫理のないテクノロジーを生み出してしまったのかもしれません。

最後の終わり方はめちゃくちゃ皮肉だけれど、彼女の孤独を思うと複雑な気持ちです。

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人間の執着

 

 

 

『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』桜庭一樹・杉基イクラ

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(上) A Lollypop or A Bullet (ドラゴンコミックスエイジ)

田舎で暮らす中学生、なぎさの学校に海野藻屑という転校生がやってきた。藻屑は自らを人魚だと語り、おかしな妄想ばかりをなぎさに話して聞かせる。最初は鬱陶しがるなぎさだったが、藻屑の家庭環境が壮絶と知ると、なぎさは彼女に親近感を覚えた。なぎさもまた、どこへも行けない少女だったのだ……。

子どもへの暴力やグロい展開が含まれるので、そういうシーンはどうしても絵の方が心へのダメージが大きいです。

傷だらけの藻屑を見るたびにつらい気持ちになってきます。

暴力的な父親を慕い、ぼろぼろになっていく藻屑。それをなすすべもなく眺めるなぎさが悲しかったです。

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『日出処の天子』山岸凉子

日出処の天子 第1巻 (白泉社文庫)

古くからの神道を信仰する人々と、大陸からもたらされた仏教を支持する人々が対立する古代日本。蘇我家の少年毛人(えみし)は不思議な王子、厩戸皇子と出会う。彼は超常的な能力を持ち、周囲の人を政治的に操っていた。一方で、彼には、「女性を愛せない」という、当時の家父長制社会では大きな欠点があった。

女性を愛せない、抱けない厩戸皇子は、有能で超能力があっても、社会に受け入れられない人なのは、切なかったです、

厩戸皇子はかわいそうな過去がある一方で、残酷でわがままなキャラクターでもあります。理不尽な理由で怒ったり、毛人と布都姫の間をとんでもない方法で引き裂こうとします。

その行為は現代と倫理観の違う作中でも許されない行為です。その証拠に、厩戸皇子は作中で大きな報いを受けます。

哀れでもあり、報いを受けるべき罪人でもある両面性が、厩戸皇子の魅力でした。

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『泥の女通信』にくまん子

泥の女通信 完全版

男と女が恋に落ち、そこに面倒な物語が生まれる。妬みや嫉み、不倫や浮気、遊び相手としてキープされていること……。物語に出てくる女性キャラクターは、悩み惑い、それでもこのろくでもない世界で生きていく。

男と女、女と女の面倒くさい関係。こんな恋愛したくねえ~!!

不倫や不特定多数との性交渉、ほぼ付き合っているのになぜか付き合ってない男女、良い未来を感じさせない恋愛……などなど。あの手この手でだめな恋愛が展開されました。

性的なシーンが多いですが、性的に興奮するというよりストーリーを生々しくするタイプのエロさです。性の気持ち悪いところ、不穏なところを露骨に出しています。

普通なようでどこかおかしい、男女の情を描いた作品でした。

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『禍話 SNSで伝播する令和怪談』大家・かぁなっき KADOKAWA

禍話 SNSで伝播する令和怪談

YouTubeで公開されている著作権フリーの怪談シリーズ「禍話」。それらの怪談をコミカライズ。肝試しをしたことで見た不気味なもの、理不尽な死を迎えた友人の呪い、奇妙なバイトでの恐怖など、さまざまな怪談を収録。

禍話とは、YouTubeチャンネル上で語られているフリー素材の怪談のこと。ホラー好きな人の中で有名なので名前は知っていましたが、触れるのは初めてです。

作画担当の絵や語り口がうまく、ぐいぐい引き込まれる内容でした。絵柄はさらっとしていますが、その分恐ろしいシーンの生々しさを感じます。

一番怖かったのは友人が酒の席で急死し、その場にいた人たちが呪われる話ですね。因果応報の話ではありますが、その因果応報の手段が底知れない恐ろしさがあります。怪異である本人は淡々としているのがまた怖いです。一番の狂気を感じました。

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何かに打ち込む人間

 

『ハイパーインフレーション』住吉九

ハイパーインフレーション 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

技術の遅れたカブールの民として生まれたルークは、支配者であるヴィクト人を騙して金銭を得ていた。命の危機によってルークは神から特別な力をもらう。それは、「生殖能力の代わりに、贋札を作る能力を得る」ことだった。無限に生成される贋札を武器に、ルークは奪われた姉を取り返そうとする。

主人公のルークは贋札を体から出す能力を持っており、その能力を使って姉のハルを助け、ひいてはカブール人を差別から救おうとします。

そしてこの作品には倫理のないキャラクターがたくさん出てきます。お金のためなら誰でも裏切るグレシャム、カブール人なのに帝国に協力するレジャッド、その他脇役などなど。

彼らの倫理のない行動に笑ったり驚いたりしながらも、そういうキャラクターと臆せず交渉をしていくルークの胆力や、他人への許しの力がすごいです。

何をしたとしてもクズはクズなんですが、交渉のテーブルにつけば共存していけるかもしれない、というテーマは希望ではあります。

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『さよなら絵梨』藤本タツキ

さよなら絵梨 (ジャンプコミックスDIGITAL)

主人公は、余命いくばくもない母親のために、母親の動画をスマートフォンで撮りためていく。母親の死後その動画を編集して学校で映画として流すが、その結末は驚くべきもので……。生徒達から非難を浴びた主人公は、ある少女がきっかけとなってふたたび映画を編集し始める。

この作品はフィクションと現実が入り混じり、入れ子構造になっていて、どこまで作品の中で「嘘」で「現実」なのかわからなくなっています。

でもそういう語り方こそが主人公にとっての救いだったんだと思います。

現実は変えられないし受け入れるしかない。親に愛されないとか、親しい人が早くに死んだとか、好きな人にどうしても振り向いてもらえないとか、フィクションは事実を塗り替えることはできません。

でも事実をどう受け止め、解釈していくかは選べるし、フィクションはそれを助けてくれます。

時系列や視点が混乱しつつも、救いのある話でした。

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『夢使い』植芝理一

夢使い(1) (アフタヌーンコミックス)

おもちゃの力を借りて「夢」を操る「夢使い」たちが、奇妙な事件を解決していきます。

おそらく打ち切りであり、回収されていない伏線がいくつかあります。ただ、章ごとにはきちんと終わっているので尻切れトンボな感じではありません。

大きく分けると「虹の卵編」「鉱物の聖母編」前後編である「最終話」があります。

まずびっくりするのが第一シーズンである「虹の卵」。少女の性的衝動を扱っており、性転換、異性装、同性愛、ナルシシズム、異形化などなど、これ一遍で性癖博覧会になっています。しかもそれを行っているのが、中学生という……。局部を直接描写する部分がないだけで、セックスシーンまであります。フィクションとはいえ全体的にやばい。

しかし倫理的にやばいのに何だかんだで楽しく読んでしまうのは、少女のものだろうと男子のものだろうと欲望が否定されない、ある意味公平な雰囲気があるからでしょうね。

悪役の願望ですら、頭ごなしに否定されないので、「あっここはこういう世界なんだな」と思えます。

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『ハンサムマストダイ』アストラ芦魔

ハンサムマストダイ 上 (ジャンプコミックスDIGITAL)

アイドルファンであるあまり、アイドルのような格好いい振る舞いを好むようになった悠里。しかし、自分がファンだったアイドル、涼が殺害されたことを知り、爆発首輪によってアイドルたちを搾取するシステムを破壊しようとする。その為に、アイドル養成学校に男装して侵入する。

殺人が当たり前のアイドル業界という設定で、主人公がその業界に反旗を翻す話なので、主人公サイドを応援しやすかったです。

あらゆるものが大げさ、過剰な状況でノンストップのギャグが繰り広げられるのには笑いました。

アイドルという立場を生かした展開も多かったです。パパラッチとの戦いや、料理番組への出演を前提とした戦いには笑いました。

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『世界の終わりのオタクたち』羽流木はない

世界の終わりのオタクたち (ビームコミックス)

年下のオタクに執着しているオタクや、同人誌を薪にできないオタク。終末世界に暮らしているオタクは、作品について何を思うのか。ハードな状況の中で、なお創作を、コンテンツを愛するオタクたちの連作短編。

彼女らの行動は、美しくはなく、浅ましいです。

印象的だったのは、女体化二次創作を好む女性の回です。好きなキャラクターが女体化するところを夢想しながら、「どうして原作で男性のキャラクターを女体化してしまうのか?」と疑問に思います。

周囲が彼女のことを否定するわけではなく、彼女自身がぐるぐる悩んで考えているところが斬新でしたね。

しかし、この世界で、困難を抱えて生きていく上で、「何かにのめり込むこと」が人を救うことがあります。終末というのはひとつの比喩で、私たちオタクは常にこのろくでもない世界でフィクションを支えに生きているのかもしれない。そしてその状況は『世界の終わりのオタクたち』に出てくるオタクと変わらないのかもしれないと思いました。

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『レベルE』冨樫義博

レベルE 上 (ジャンプコミックスDIGITAL)

野球進学のために親元を離れた高校生、雪隆のマンションに、記憶喪失の宇宙人を名乗る男がいた。自由すぎる彼のせいで、雪隆はトラブルに巻き込まれることに。稀代のトラブルメーカーでいたずら者の「バカ王子」をテーマにしたSFコメディシリーズ。

測のつかない展開でありながら、「面白さ」という期待は裏切りません。わかりやすい王道展開を拒み、何度も読者を騙しながら、納得のオチへ持っていきます。

どこまでもベタを拒むひねくれた内容ではありますが、そこが私みたいにひねくれた人間には心地いいんですよね。

そして映画の『エイリアン』を思い出すような……おどろおどろしい描写が魅力的です。悪夢のような絵柄です。

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自分とは何か

 

『怪獣になったゲイ』ミナモトカズキ

怪獣になったゲイ (ビームコミックス)

自分がゲイだと自覚する高校生、安良城貴は、ひそかに恋心を抱いていた教師、黒田にゲイという存在を否定しているところを聞いてしまう。それ以来、安良城の顔は醜い怪獣の形になり果ててしまう。黒田も含め、周囲は安良城の顔を元に戻す方法を探るが、黒田にゲイであることを受け入れてもらえない安良城は悩み……。

徹頭徹尾きつい話であり、自分のことを振り返ってしまう内容でした。しかし、自分のことを振り返らない人間は、永遠に振り返らないという話でもあります。

自分がマジョリティであることを信じて疑わない人間は、怪獣になる人の気持ちがわかりません。主人公は自分を責める環境から出ていくことができてよかったですが、周囲に偏見がなければそれはしなくていい苦労のはずです。

やるせなさと同時に、無意識に人を傷つけてはいないかと怖くなる作品でした。

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『宝石の国』市川春子

宝石の国(1) (アフタヌーンコミックス)

意思を持ち動く宝石たちが暮らす世界。落ちこぼれのフォスフォフィライトは博物誌をまとめる仕事を任される。しかしいい加減なフォスは仕事に身が入らず……宝石をさらう月人たちとの戦いを重ねるうちに、フォスは体も心も変容し続けていく。

スケールが大きな作品でありながらミクロな視点でも楽しめました。それはフォスフォフィライトが人間味のある愚かさを持ち合わせたキャラクターだったからではないでしょうか。

フォスフォフィライトは常に誰かを助けたがっていますが、他人がどういう助けを欲しているかには気づいていません。そして他人を助けようとして空回りしています。

そのフォスフォフィライトの受ける因果応報があまりにもスケールが多すぎて、何を言っていいのかわからなくなります。コズミックホラーを読んでいるみたいな気分になりました。

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『いぬやしき』奥浩哉

いぬやしき(1) (イブニングコミックス)

冴えないおじさん、犬屋敷は、ガンで余命宣告をされ、自分の人生を省みていた。そんなとき突然機械の体を手に入れ、自分が自分ではない心境に陥る。犬屋敷は人を助けると自分が自分でいられることに気づき、強大な力を使って人を救うようになる。

主人公、犬屋敷は、機械の体を持ったことで自分の同一性に不安を抱き、「いいことをすると、自分が自分でいられる気がするから」という理由で人を助けます。

心がむしゃくしゃしたとき、赤十字に寄付をしたり、人に親切にすることによって心が落ちついたことがあります。だから犬屋敷の行動には共感を覚えました。

しかしもうひとりの機械化人間、皓は能力を人を殺すことに使ってしまい、人々から追われる身となります。

本人の主観から見れば、彼は彼なりに「自分の同一性」に悩み、悩んだ結果殺人を犯してしまっています。

だからと言って彼の罪が許されるわけではないのですが、善も悪も、それを為す人の主観から見ればあまり変わりはないのかもしれない、と思いました。

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『ご飯は私を裏切らない』heisoku

ご飯は私を裏切らない (角川コミックス・エース)

中卒、29歳。派遣のアルバイトを転々とし、何とか食いつないでいる主人公。そんな主人公の楽しみは、食べること。いくらをトーストに乗せたり、パウチのおかゆを袋のまま食べたり。料理をし、食べながらぐるぐると思考は回る。食事を通して底辺貧困女性の生活を描く。

主人公は中卒の派遣アルバイターで、様々な職を転々としています。頑張って働こうとしても、ミスを繰り返し、いつもうまくいきません。派遣という職を選んでいるのも、「短期の仕事の方が自分のぼろが出ないから」という理由です。

主人公は食事をしながらネガティブなモノローグを垂れ流し、何らかの結論をつかんだように見えるも、またいつもの生活に戻っていきます。

誰かから救いの手が差し伸べられたり、主人公が成長していったりはしません。

孤独や不安のあまり幻覚を見る主人公は限界ですが、妙にコミカルで共感できる内容です。

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『hなhとA子の呪い』中野でいち

hなhとA子の呪い(1)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

ウェディング会社の社長である針辻真は、性欲を嫌い、性欲抜きの愛こそ真実の愛というポリシーを持つ。しかし彼の元に、「A子」という謎の少女が現れる。彼女は針辻の内なる性欲を解放しようと働きかけ、悪魔のようなささやきをする。彼女は幽霊なのか、幻覚なのか……。

己の持つ性欲が、どうしようもなく暴力性をはらんでいることに悩む針辻。道行く女子高生を「性的だ」と決めつけてしまう、思慕する相手にも性欲抜きで相対すことができない、相手はひとりの尊厳を持った人間だというのに。

「実際に手を出さなければいいじゃん」とか「妄想に罪はない」と言うのはたやすいです。しかしそう割り切るには、針辻は真面目で、優しかったのです。

同時に、性愛の暴力性について「どうしようもないんだ」「身を任せるしかないんだ」と決断した人間の末路についても描かれていて、やはりこうはなりたくないなと思います。

パースやデッサンの狂った絵柄が針辻が追い詰められていく姿にマッチしており、引き込まれる漫画でした。

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『少年少女漂流記』古谷兎丸・乙一

少年少女漂流記 (集英社文庫)

孤立、親との関係、ダイエット。悩みを抱える少年少女たち。彼らの心はファンタジックな風景を生み出す。小説家の乙一と漫画家の古谷兎丸の合作である連作青春短編。

空想のファンタジーっぷりがすごい。夢の中のように非現実的で、それゆえに壮大。それが思春期の不安定な心によく合っていました。あの時代の情緒不安定、自意識過剰っぷりにはファンタジーがよく似合いますよね。それから『学校の中枢』も好きです。かつての親友のクラスルームへ、ろうかの黒いところだけを踏んで歩いていく話。主人公の自意識過剰っぷりがリアルすぎて笑いました。

空想と思春期の痛々しさがまじりあう作品でした。

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現実での精神疾患

 

『魔女をまもる』槇えびし

魔女をまもる。(上) (Nemuki+コミックス)

16世紀、魔女狩りの嵐が吹き荒れるドイツ。そこでひとりの医者が魔女を治療しようとしていた。ヨーハン・ヴァイヤーは、魔女と呼ばれる女性たちの奇行を「病気」なのではないかと思い、魔女と噂される老女や人狼に襲われた事件を調査する。精神医学の祖と呼ばれる医師を描いた歴史漫画。

ヨーハンは魔女と呼ばれる女性たちが病ゆえにそうなっていることを証明するため、「魔女が起こした事件」を調査していきます。このミステリ要素は史実ではなく創作でしょうが、大変面白いです。

ただ、それが魔女と呼ばれた人々によるものだと証明できなくても、常に事件の終わりは苦い展開になります。決して事件が起こる前に防げないというのはミステリの探偵の常ですが、ヴァイヤーが志を持って魔女を救いたいと思っているだけにこっちも苦しくなりました。

ヴァイヤーは罪を犯していない「病」は治療できますが、罪を犯してしまった「病」は救えない。今にも通じる精神医療の悩みでもあります。

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以上です。参考になれば幸いです。