ブックワームのひとりごと

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『白い旗』水木しげる 講談社文庫 感想 戦争のさなかにいる人の悲しさと愚かしさと

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白い旗 (講談社文庫)

 

あらすじ・概要

硫黄島で絶望的な戦いをする日本兵たち。武器も水も尽きたところで、彼らは生き延びるか玉砕するかという選択肢を突き付けられる。表題作ほか、水木しげるの貸本時代の戦記もの漫画をまとめた文庫。

 

人間の愚かさが悲しい

著者のリアル寄りの絵柄は読んだことがなかったですが、漫画がうまい……となる作品でした。

シルエットとハッチングで描かれる戦艦や飛行機がとても美しいです。特にシルエットの使い方がうまく、黒い船の影が見えるだけで物語を感じさせます。

すごく書き込みが細かいわけではないですが、特徴のとらえ方、密度の高いところと低いところの描き分けが心地よかったです。

コマ割りも挑戦的な雰囲気でした。

 

戦記ものとして描いている限り戦争をロマンチックに書いている部分はあると思います。物語では劇的に描かれていますが、実際には戦艦が沈むことも、飛行機が撃墜されることも、おぞましい現実です。

同時に、戦争に相対する人間の苦悩や愚かしさを描くのが、著者なりの誠意なのかもしれないと思いました。

日本が負けることを感づいていながら、立場上戦争から降りられない上官。生き残るべきか、玉砕すべきかの議論。国粋的な教育に洗脳され、自ら散っていく特攻兵たち。登場人物が言うように、死んでしまった人たちは戻ってきません。

同時に、作中時間では日本を占領するアメリカが、日本をどう扱うかわかりませんでした。戦争に負けた果てに何があるのか、不安だった面もあるでしょう。

私は、未来の人間だからあれこれ勝手なことが言えますが、実際に戦争に巻き込まれた人間を目の前にしたら、何も言えないかもしれないです。