あらすじ・概要
自営業でバンドマンな著者は、同じくフリーランスの妻の仕事の手伝いをしながら暮らしている。楽ではない日々だが、妻と妻の妹と家族として愛し合っている。日本での日々のこと、アメリカのイベントに参加した時のこと、新婚旅行のフランスでのできごとを語るコミックエッセイ。
気弱で優しいからこそ社会に怒り、社会に傷つく
著者はちょっとしたストレスで体調を崩したり、営業が苦手だったり、気弱だなあと思います。
一方で、スリに遭いかけてもスリを起こすような社会について思いを馳せたり、相手を理解しようと努力したり、優しい人間でもあります。
頼りない人ですが、周囲の人たちが著者のことを好きなのもわかる気がします。
著者夫婦は妻の妹を世話し、親子のように暮らしています。妹の様子を見るに、子どもながら大きな傷を経験しているようです。
妻と妻の妹がエスカレーターに乗るとき、会話するシーンで、幽体離脱のように著者の心が分離するのがいたたまれなかったです。
妻の妹を家族として愛しながらも、妻の妹を傷つけた実父を責め、父親代わりになれない自分にも葛藤するという著者の姿が苦しかったです。
登場するのは著者含めて優しい人たちですが、生活への不安、自分は他の人と違うという疎外感、「こうあるべき」を押し付けてくる世間への不信感が行間から見え隠れします。
著者が海外のライブイベントに参加したとき、とても優しい人ばかりなのに、歌っている曲が反体制的なのも印象的でした。
優しいからこそ社会の理不尽に怒り、泣き、それでいて相手のことを嫌いになり切れない葛藤を感じました。