あらすじ・概要
社会に様々な文化を紹介してくれる文化人類学者。しかし、彼らの到来が悪影響をもたらすこともある。ふたりの著者が自分が体験したこと、見聞きしたことを振り返り、文化人類学者は地域に対してどう振舞うかを考える。
迷惑と親切の間で揺れる学問
調査されるのははた迷惑である……という話に終始するのかと思ったらもっとややこしい問題も扱っていました。
もちろん、ただ学術的な発見がほしいだけで土地にやってきて、あれこれ聞きまわったり資料を持ち去ったりする人々がやっかいであることは書いています。
同時に、文化人類学者が善意でその土地に関わった結果、政治的な問題にも巻き込まれざるを得なくなるという話もあります。
調査のためにその集落で生活し、祭祀や共同作業に参加するうちに、学者と調査される文化という垣根が失われていってしまいます。それがいいことなのか悪いことなのかは当事者たちにもわかりません。もしかしたら善し悪しがわかるのに数十年かかるのかもしれません。
著者のうちのひとりも、西表島に関わるうちに新ビジネスや社会活動にかかわることになります。良かれと思ってしたことであっても、「これでよかったのか」という迷いは付きまといます。
私もインターネットで学者を名乗る人がフィールドワーク先のことをべらべらしゃべるのが気になっていました。そもそもインターネット上のことなので本物の学者であるかどうかも怪しいですけど。
本人に許可を取ったものならいいとしても、特定の地域におけるネガティブな情報をあんな風に共有するのは、調査されている側はいい気がしないのではないでしょうか。
学者だけではなく、受け取る側も一方的すぎる発信には警戒心を抱いた方がいいのでしょう。
ページが少なめだし文字も大きいので、気軽に読めるボリュームです。文化人類学に詳しくない人にも読めると思います。
『さわっておどろく! 点字・点図がひらく世界』広瀬浩二郎 嶺重慎 岩波ジュニア新書 感想