ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

『宴のあと』三島由紀夫 新潮文庫 感想 権力に狂わされていく成り上がりの女

このブログには広告・アフィリエイトのリンクが含まれます。

宴のあと (新潮文庫)

 

あらすじ・概要

もう恋愛はしないだろうと思っていた料亭のおかみかづは、元外相の野口と恋に落ちる。彼が都知事選に出馬することになったとき、かづは料亭で稼いだお金を野口のために使うことを決める。野口に内緒で、かづはお金をばらまきながら人々の中に入り違法な選挙活動に手を染める。

 

貴族と庶民の違い、美しく空虚な権威

面白かったです。権力に狂わされて行く女、怖い。

野口は革新党に所属し、当時としてはリベラルな政治家だったでしょう。しかし彼は育ちがよすぎて人間の悪意にうといところがありました。そしてなかなか周囲の思惑に気づかない世間知らずでもあります。

一方、野口のもつ貴族らしさに憧れ、強く惹かれるかづは貧しい身の上から高級料亭のおかみに成り上がり、その俗っぽい身の上ゆえ人々の心を熟知しています。そのかづはお金をばらまきながら人々の心を魅了していきます。

野口に心酔し献身するかづのほうが、野口が導くべき民衆の心を理解し篭絡するのは皮肉な光景でした。

かづに男尊女卑的な思想がなければ仕事が好きな女としてそれはそれで幸せにやっていた気もします。それができなかったからこそこの話なんですが。

 

かづの運営する雪後庵の美しい丁寧な描写もすさまじかったです。私は料亭に行かないのでリアリティのほどはわからないですが、そこに込められた美意識と権威、そしてどこか空虚な輝かしさは飲まれるほどの威力がありました。

三島由紀夫って本当に権威が好きなんだろうな……という気持ちと、権威の描写が生々しすぎて逆に虚無感やはりぼて感を覚えるな……という気持ち両方あります。

 

現実の人をネタにしたところはあまり肯定できないですが、小説として面白いことは確かな作品でした。

 

彼はなぜ金閣寺を燃やしたのか 三島由紀夫『金閣寺』感想 

文豪たちが出会った幽霊たち『文藝怪談傑作選 特別篇 文藝怪談実話』感想

『青年のための読書クラブ』桜庭一樹 新潮文庫NEX 感想 少女たちの苛烈でおかしな青春