
イースト・プレスのコミックエッセイレーベル「コミックエッセイの森」のおすすめをまとめました。
KindleUnlimitedにいくらか入っているのもあり、レーベル単位でまとめてみました。
海外旅行・移住
『アイラブ台湾屋台めし』フジナミコナ
著者は台湾の屋台の食べ物を食べ歩く旅に出かける。夜市を練り歩きスナックや料理を食べ、ジューススタンドでスイカジュースなどの甘い飲み物を買い、マンゴーかき氷に舌鼓を打つ。2巻では舞台は台南へ。異国で気になる料理にどんどん挑戦していくコミックエッセイ。
「この料理なんだろう?」→頼んでみる→想像していない調理方法→食べる→おいしいの繰り返しです。調理法も味もわからない食べ物に挑戦するところがわくわくしました。著者の体験を追っているようで楽しかったです。
絵柄もかわいくて癒されました。
偶然おいしくないものばかり食べてしまう一日があったのも妙にリアルでしたね。
2巻は台湾の南部、台南に舞台が移ります。そこで出会った男性とのやりとりが印象深かったです。著者は現地で出会った日本人男性(台湾在住)と仲良くなり夜市に出歩きます。いい人だからよかったですが、知らない人と海外の夜を過ごすのはちょっと怖いかもしれませんね。
『ボンクラ隊が行く! おいしい台湾食べたいわん』水谷さるころ
コミックエッセイ作家の水谷さるころは、子どもと夫を連れて台湾に旅行に行く言雄になった。台湾のおいしいグルメをみんなで食べまくり、楽しむ。占いに行ってみたり、子連れ旅の苦労を感じたり、台湾を満喫するコミックエッセイ。
台湾で食べまくるだけのコミックエッセイ。よくある観光をさくっと終わらせて、食べる食べる。私は食べ過ぎるとお腹壊すので、これだけ食べられるのはうらやましいですね。
日本では見たことのない料理が多くて面白かったです。クレープっぽいものとか、何かを包んでいたりとか、日本語では何とも表現しがたい料理も……。
それでいて、現地在住の人は「台湾よりも日本の方がおいしいものが多い」とコメントしているのが面白かったです。
確かに観光客は有名な店やおいしい店に行くことが多いので、特にガイドブックに載っていない店の標準値はわからないですよね。
『中国秘境紀行 大陸の果てまでいっチャイナ!』日野トミー
中国で働いたことをきっかけに中国に興味を持つようになった著者。そんな著者は中国人の友人とともに中国人の奥地へ向かう、雄大な自然と、多種多様な少数民族の文化を楽しむ。また、中国のパワフルで面白い人々にも圧倒される。
中国人の友人と共に、中国の奥地を観光する漫画です。中国の自然はスケールが大きいです。山も谷も川も日本のものより大きいです。日本の自然ってよくも悪くもこじんまりしているので、これは中国でしか見れないものですね。
町を歩くと民族衣装を着た人々が歩いているのは面白いです。観光客のためもあるのかもしれないですが。
何気なくふらっと入った店がすごくよかったり、逆に外れを引いたり……という予想外なノリも楽しかったです。他人の失敗を笑い話の範囲で読むのは好きです。
個性豊かな人々と、美しい自然に心奪われます。
一方で。中国政府はチベットをはじめとする少数派たちに弾圧を加えている事実があります。
著者も、その矛盾について葛藤を覚えます。
対等ではないのに、観光資源として利用するなんて皮肉です。
『北欧! 自由気ままに子連れ旅』織田博子
旅行好きの著者は、子どもを連れて北欧へ行く計画を立てる。旅のしおりを作って計画を立て、子どもを連れてホステルに泊まる。北欧で友人に会い、おしゃべりをしたり出かけたり。北欧旅コミックエッセイ。
ムーミンのテーマパークの話が楽しそうで行きたかったです。
著者は貧乏旅行なので、家族でホステルに止まってキッチンで料理をしているのが面白かったです。旅先で料理って素敵。
私もお金がないころはホステルに泊まって旅行をしていたので、懐かしい気持ちになりました。
スーパーでチーズやパンを買ってオープンサンドを作って食べるのがおいしそうでした。海外のサンドイッチっておいしそうに見えますよね。
旅行先で海外の友人に会って遊ぶのは、コミュ力強い……と思いました。地元の人との交流は楽しそうですね。
ピクニックをしたり、ご飯を作って食べたり、友達に会わなければやらなさそうなあれこれがよかったです。
『女一匹シベリア鉄道の旅』織田博子
ユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道。著者は女一人でシベリア鉄道に乗り込み、ロシアから中国を旅する。そこには同乗者の出会いや別れ、車窓から眺める美しい風景があった。
意外だったのがバックパッカーが少なかったこと。仕事の出張や里帰りに使う地元の人の方が圧倒的に多いみたいです。よく考えると当たり前か。
子どもたちを連れて旅をする肝っ玉かあちゃん、カナダ人のバックパッカー。靴を運んでいる中国人商人など、さまざまな人がシベリア鉄道を利用していました。
そういう背景が全く違う人たちが、同じ列車に乗って会話をしているのは、まさに一期一会でした。長時間の移動でしか味わえない旅の醍醐味があります。
ただ列車にシャワーがないのは大変そうでした。1、2日ならともかく横断中ずっと頭洗えないのはきつそうですね……。
『女一匹シルクロードの旅』織田博子
旅行好きの著者は、シルクロードへの旅を決意する。中国、中央アジアの国々、トルコまで、ユーラシア大陸を横断する旅程となった。旅先でトラブルがあったり、人の優しさに助けられたり。シルクロード沿いの国々の複数の文化が混交した風景もたっぷり楽しんだ。
観光や体験も面白いのですが、この作品で一番面白いのは現地の人々です。
次のビザを取るために足止めされた町で、人に出会い、密な関係を結ぶのが面白かったです。
国籍も素性も違うのに、姉妹のように仲良く過ごしていたのがほっこりしました。そしてそういう関係があっても二度と会えなくなるのが旅の途中の寂しさです。
現地の人と月夜に踊るというロマンチックなシチュエーションにはぐっときましたね。こんな漫画や小説みたいなことあるんですね。
日本人は踊るのが下手なので、こうして日常でさらっと踊れる人を尊敬します。
イスラームとスラブの文化が入り交じる中央アジアの世界も楽しかったです。
『オラ!スペイン旅ごはん』ハラユキ
スペインが好きで、スペインにも在住していた著者は、スペインでの食事を漫画にする。スペイン独自の食べ物や、それに伴う文化を紹介する。フラメンコの盛んな土地に行くなど、食べ物以外の文化も取り上げる。
スペインの人の食へのこだわりがすごいです。
美食クラブという団体があり、それに所属している人たちが多くいるらしいです。そして、美味しい料理の作り方というのは独占せずみんなで分け合うものというのもすごい。
料理は知らないものばかりで、日本に入ってくるスペイン料理はほんの一部でしかないのだと気づきました。
フラメンコ好きな著者がフラメンコの聖地に行く場面は、文化的にも面白かったです。
フラメンコは、何となくでしか知らないですが地元民が歌うものは全然違うんですね。
『ヨーロッパたびごはん』ながらりょうこ
ドイツ、ベルリン在住の著者夫婦は、ヨーロッパを旅しながらその土地のおいしいものを食べる。パンやお菓子、屋台グルメ、豪華な朝食など、食事からその国の文かが見えてくる。かわいくて美麗な食べ物エッセイ。
とにかく絵柄がかわいくてかっこいいです。ずっと眺めたくなるコミックエッセイです。
作品のメインテーマであるヨーロッパの風景と食べ物はしっかり描き込まれており、それでいて描写がくどくなりすぎない抜け感があります。
自分もおしゃれになった気分になります。
テーマもヨーロッパの日常食なのがいいですね。屋台で買い食いしたり、パン屋に入ったり。ポテトフライやフランスパンなどの日本でも見かける食べ物は、旅の途上で食べると不思議に違った意味を持ちます。
モーニングが好きなのでフル・ブレックファスト食べたいですね。
『くいしんぼうの南インド生活』作画しばざきとしえ 原案あーちゃん
海外で起業したいという夢とともにインドにやってきた著者。南インドは豊かな食文化にあふれていた。南インドで食べたいろいろな食事、スイーツや、インドで仕事をする上での苦労、インド人の優しさを描いたコミックエッセイ。
食べ物関連のコミックエッセイは多いんですが、「南インドで起業する」というのがなかなかない状況で面白かったです。
海外で仕事をする人はガッツがあって面白いです。どうやって商売を軌道に乗せたのかは、ビジネス面で興味深かったです。
登場するインドの人がみんな親切で、気持ちのいい雰囲気だったのがよかったです。距離感が近くて家族のようです。本当はみんながみんな善人じゃないかもしれませんが、優しい漫画で癒されました。
食べ物
『いつか名古屋でモーニングを』勝川ユミ
名古屋に暮らしている著者は名古屋のモーニングについて漫画にする。名古屋のモーニングではドリンク代のみ、あるいは+数百円で豪華なモーニングを食べることができる。和風・洋風、それ以外など、さまざまなモーニングを食べ歩き、友人や家族と舌鼓を打つ。
「モーニングとは?」となる内容の連続で興味深かったです。
ドリンクに無料、あるいは数百円でついてくるモーニングに目を白黒させてしまいます。今より物価の安い時代の話とはいえどうやって採算を取っていたのでしょうか。味のことよりそのことが気になります。
内容も西洋風の朝食から和食、インド料理、スイーツなど個性豊かです。「ドリンクについてくる朝ごはん」以外には共通点がないくらいです。
喫茶店以外の店もモーニング営業しているのがすごいですね。
著者の父親が喫茶店好きで毎日のように通っていたり、モーニングの土地的事情だったり、そういう子ネタも面白かったです。
『おいしい大地、北海道!』すずきもも
北海道で暮らしているイラストレーターの著者。彼女は食べるのが大好きで、自分で料理もする。そんな著者が北海道のおいしいものを漫画で紹介。巨大なラワンブキ、ジビエのエゾシカ、いろいろなチーズなど、北海道だからこそ食べられる魅惑の食材を語る。
あまり深く考えずに「おいしそ~」と読んでいられる本でした。絵柄もかわいらしく、イラストもデフォルメされつつもシズル感がありました。
一話ごとにおいしいものの紹介や、おいしいものを作っている牧場や畑で体験したことなど、そして簡単なレシピが描かれています。
紹介される食べ物は外国のものや郷土料理など、ちょっと珍しくて楽しそうなものが多いです。こういう「ちょっと珍しいもの」って食べてみたくなりますよね。
登場する食べ物も巨大なラワンフキやキャベツ、エゾシカなど、本州では気軽に食べられないものが多くて面白かったです。
私はフキが好きなのででっかいフキは気になりますね。フキのお寿司やフキの肉詰め食べたい。
『豆腐百珍 百番勝負』花福こざる
江戸時代の豆腐レシピ本、豆腐百珍。そこに書かれているレシピを全て作ってみるという著者の挑戦が始まった。おいしいまずいに一喜一憂したり、手間のかかるレシピに苦戦したり、江戸時代と現代の違いを実感したり。体当たりの実録コミックエッセイ。
江戸時代の豆腐料理を再現してまずいとかおいしいとか言うことに深い意味はないです。しかし生活に役に立たないことをわざわざやるところに文化を感じます。
著者が数合わせに料理を出していたり、実際のおいしさを考慮してなかったり。だからこそまずい豆腐料理もたくさん登場します。その正直さに笑いました。
そしてレシピからまずいと察していながらも、きちんと作ろうとする作者の姿勢に気合いを感じました。ものによっては何時間もかかるレシピもあります。それを漫画の企画のために完遂するところがすごいですね。
労力としては下手な漫画よりも大きいでしょう。こんな手間のかかる企画にGOサインを出した編集部もすごいです。主に苦労するのは著者とはいえ、編集者もかなり著者に協力したようです。
地味だけれど、なかなか壮大な実験でした。
日本の文化・旅行
『鈴木みきの富士登山ご案内』鈴木みき
著者は登山が趣味。登山の中でも独特の文化を持つ「富士登山」を登山者の視点から解説。富士登山の歴史や、登山コースの違い、登山において気をつけたいことを漫画で描く。日本を代表する山のことが好きになれるかも。担当編集者と富士登山に挑戦した実録漫画つき。
意識はしていなかったですが、富士登山におけるオーバーツーリズムについて報道される今、読んでよかった漫画です。富士登山の文化、登山への心構え、富士山の山小屋のシステムなど、一通りのことが書いてあります。
ニュースで話題になっているのはこういうことなのか、という納得がありました。
日本の高山にしては登りやすく、登山のための設備もある富士山。しかし登りやすいとはいえ、命の危険にさらされることもあります。富士山の登頂率は7割です。
7割の登山者になるために、高山病や低体温症を防ぎ、日頃から運動を心がけるのが大事なようです。
最終章で著者と担当編集者は富士登山を実行しますが、同行者が高山病のため体調不良になると迷わず撤退を決めます。その潔さに感動してしまいました。
結果的に大事には至りませんでしたが、こういう潔さが、登山における生死を決めるのでしょう。
『スソアソコのひとり古墳部』スソアキコ
古代をテーマにした漫画から古墳に興味を持った著者は、趣味で古墳を回るように。群馬県の古墳や、古墳の聖地奈良県の古墳を巡る。そこで出会った古墳の姿、遺跡や埴輪たちをイラストと文章で解説する。
古代日本という地味なテーマに対して、真摯に調べて古墳をめぐって……という行為を繰り返している著者が新鮮でした。どんなジャンルにもそれを愛好するマニアが入るのだなと思います。
登場する土地は群馬や奈良。古墳の復元や古墳にまつわる展示に対して、工夫をしている自治体が多いのも面白かったです。
古墳ができた当時のように石を積んでみたり、埴輪のレプリカを並べてみたりと見て楽しむことを意識していてすごいです。
これを見ていると、地元回りの古墳はあんまり展示のために手が入ってないんだな……となります。宮内庁のものなので簡単に手出しできないのもありますけど。
『温泉浴衣をめぐる旅』スタジオクゥ
イラストレーターふたりのユニットスタジオクゥは、温泉浴衣にほれ込み、面白い柄の温泉浴衣を探して各地を巡ることにした。文字、動物、人物など、さまざまな題材で描かれた温泉浴衣の柄を紹介しつつ、各地の温泉地の見どころを見ていく。そこにはその土地ならではの文化があった。
まず「温泉浴衣」というテーマが旅行漫画として画期的だし、なおかつ著者たちが本当に温泉浴衣に興味を持って調べていることがわかるので、その時点で100点になってしまいます。
調べるといってもただ情報の目立つところをさらうのではなく、自分の足で歩いて図書館で調べて……ときちんと労力を払って調査を行っています。
だから読み物としてボリュームがあり、じっくり楽しめます。
全力で知的好奇心を肯定してくれるような作品で、わくわくしながら読みました。おすすめの本です。
生き方・生活
『旅したら豆腐メンタルなおるかな?』小久ヒロ
著者は筋金入りの小心者、そんな自分を変えたくて、やりたいことをやってみる旅に出た。ドイツで不愛想な人たちにおびえたり、福島の動物施設でボランティアをしたり、タイでぼったくりに遭いそうになったり。人と出会うたびに、著者は自分の人生を見つめなおしていく。
ドイツにおいては国ごとの価値観の違いを知り、不愛想でも冷たくはないドイツの人々を知ります。
福島の動物施設でボランティアに挑戦した著者は、保護されている動物を散歩させたりあれこれ面倒を見たりします。少々言葉がきつい人もいて、小心者の著者は困惑します。
台湾では、距離感の近い女性に出会い、食事を共にします。余談ですが、私も台湾でそういう女性に会ったことあります。そういう人多いんでしょうか?
そして、人を信じるようになった著者は、初めて行くタイでぼったくりの恐ろしさを知り、人間不信に陥ります。
いろいろな国を巡った著者は、自分の良い面も、悪い面にも気づきます。そして、自分が持ついろいろな感情は、相手も同じように持っていることも。今他人があらわしている怒り、喜びも、自分の中にあるものです。
『としをとるのは素敵なこと』有賀すずな
若いころ漫画家をしていた著者は、50代になり、自分の老いに直面する。体力の衰えや、視力の衰え、記憶力の減衰など。変わっていく自分に戸惑いながらも、少しずつ受容していく。一方で、絵の仕事を改めて始めたり、剣道を始めたり、新しいことにもチャレンジする。
視力の低下、体力の低下、要望の変化など、著者はさまざまな老化の現実に直面します。それに対して、著者は今までの価値観を少しずつ変えていきます。
人生の先輩が、衰えに直面しながらも、自分と向き合っていくのは、まだ若い私にとっても救いではありました。
衰えていくのはどうしようもないけれど、それでも楽しめることは楽しみたいと思います。
年を取ることで他人に寛容になれた、というくだりも、そういう人間であれればいいなと思いました。頑なになってしまうことに不安はありますが、老いることで柔らかくなれることもあるのかもしれないです。
『なんて楽しい節約生活』森川弘子
SF作家とイラストレーターという夫婦そろって不安定な収入の家族は、節約生活をしながら楽しく生きている。懸賞でいろいろなものを当てたり、フリマアプリにハマったり、子どもの部活を応援したり……お金がなくても楽しめるアイデアいっぱいの漫画。
フリマアプリにハマるのもあるあるで共感してしまいました。フリマアプリはお金のためにやっているのではなく、「誰かが使ってくれれば手放せる」のでやっています。だから売値はそんなに高くなくてもいいんですよね。
他人が使ってくれた方がエコですしね。
「自分は節約生活をいやいややっているんじゃなくて楽しんでやっている」という著者の主張が印象的でした。
生産性とか、経済を回すとか、結局社会の都合であって個人が解決すべき問題ではないんですよね。経済的な生産性がなくても、人生は楽しいです。
まあ、著者のような人ばかりだとそれはそれで社会は回らないとは思います。しかしこういう生き方を許容できる方が豊かな社会でしょう。
『自分の顔が大キライ』長谷川ケイ
かわいい女の子に憧れていた著者は、ずっと自分の顔に劣等感を持っていた。そんな彼女は整形外科のキャンペーンに当選し、無料で整形手術を受けることになった。なりたい自分になった後、著者は自分の劣等感に向き合うこととなる。
私は正直整形には肯定的ではないです。ルッキズムを促進する可能性がありますし、お金をかけて美人になることを是とされるなら、お金がない人はどうすればいいのでしょうか。
しかし著者の考えを読んでいると、頭ごなしに否定できるものではないとも感じます。
著者は、整形をすることで自分を振り返るきっかけとなったのは確かです。
なりたい自分になったけれど、同時にどれだけ周囲の人が他人を外見で判断しているかを知ってしまいました。ちやほやされることを嬉しいと思う気持ちと、他人への失望を同時に得てしまいました。
著者は最終的に外見にこだわらなくなっていきます。でも整形という過程を踏んだからこそ、外見が全てではないという気持ちになったのかもしれません。
人生万事塞翁が馬、幸せと不幸は他人の立場からわからないことも多いと思いました。
『田んぼはじめました』とびやあい
食育に興味を持った著者は、自ら農業を実践するために稲作を学ぶ。長期滞在で稲作の一年間を体験するが、そこでは大変なことばかりで……。農業の大変さと、そこで生まれる楽しさを描いたコミックエッセイ。
農業を便利にする機械はたくさん生み出されましたが、機械があっても人間がやらなくてはいけないことも多く、大変そうでした。
私は都会育ちなので農業には詳しくありません。なので知らないことばかりで面白かったです。
稲作における一年のカレンダーは調べれば出てくるんですが、「実感」はなかなか読めません。そういう意味でこういう理屈より実感を大事にした読み物も重要だなあと思います。
印象的なのは土地を離れて農業をすることにたいして父親から反対を受けたことです。確かに都会人ならともかく、農業をやっている土地からわざわざよその土地に出かけて農業をするのは「何のためだ?」となるかもしれません。著者の父には土地への愛着もあったのかも。
著者から理由を聞いたら納得してくれましたが、こういう心の動きって興味深いです。
仕事
『地元で広告代理店の営業女子はじめました』えりた
求人広告ペーパーの営業として採用された著者。慣れない飛び込み営業やテレフォンアポイントに四苦八苦し、顧客とうまく話せずに悩む。周りからアドバイスを受けながら、著者は徐々に営業の技術をものにしていく。
「営業ってこういう流れでするんだ!」ということがわかりやすく書かれていて参考になりました。
人間相手の仕事だからこそ、ハードな営業。断られるのもしょっちゅうだし、広告の効果が出ず叱られることも。その度に落ち込みつつも、具体的なアイデアで現状を打開していく著者はかっこよかったです。
営業は、ただセールスするだけではなく、相手の利益と自分の利益を両立させる仕事なんですね。その利益のすり合わせをするために会いに行き、打ち合わせをするんでしょうね。
営業ならではの苦労も多く書かれていて、担当者が決まっていないばかりに複数の人から訂正依頼が来たり、役職者が多くて顔を覚えられなかったり……自分が営業の方と接する際には気を付けようと思いました。
『葬儀屋さんになったわけ』はがあおい
葬儀屋に就職した著者は、そこでさまざまな体験をする。遺族や喪主にどう寄り添うか、葬儀という儀式をどう滞りなく進行するか、僧侶や関係会社とのやりとりはどうするか……。仕事に向き合い、考えるうちに、人間としても成長していくコミックエッセイ。
感動的な話から、ブラックジョークのような話まで取り揃えていて面白かったです。葬儀屋独自のエピソードや知識がふんだんにありました。
印象的だったのは、喪主や遺族のリクエストに応えていろいろな葬儀に対応することです。
絵の教師だった故人を偲ぶために、教え子たちに棺に絵を描いてもらいたいという遺族。その提案を受け入れ、どうやって実現するか考えるところが面白かったです。
実際自分が喪主になるときはこんなこと考える余裕がなさそうですが、こういうイレギュラーな要望にも対応してくれるのは安心感があります。
家族関係
『家族が片づけられない』井上能理子
うつをきっかけに実家に戻った著者。しかし実家は、大変な汚部屋と化していた。家の大掃除をし、住める環境に戻した著者だったが、家族は相変わらず片付けられないまま。その上、掃除を巡って口論になる始末。疲弊する原因は、彼らの心の闇にあるようで……。
この本は「心の闇を乗り越えて片づけられるようになりました!」という話ではありません。「片づけをして家族(自分含む)の心の闇に気付いた……」という話です。なので話が終わっても問題は解決していません。
しかしながらこの作品は非常に身につまされる内容になっています。シングルマザーとして三人の子をなんとか育ててきた母、フリーターであることがコンプレックスの弟、コミュニケーションがとりにくい妹は、自分を否定されることを恐れています。だからこそ、まっとうなアドバイスですら拒絶してしまいます。
そして賽の河原のような家で、執拗なほど掃除を繰り返してしまう著者自身も、少しゆがみを抱えています。「汚部屋を掃除した」ことで、一気に家族の闇が見えてきてしまったのです。
正直オチらしいオチがないので、「作品」としては面白いとはいいがたいです。しかし、自信のなさから悪循環に陥ってしまう弱い人たちとどう付き合えばいいのか悩む著者の姿は、他人ごとではないんですよね。
『私がダメ母だったわけ』武嶌波
著者は、愛しているはずの子どもにつらく当たってしまう。その原因は、親との関係にあるようで……。虐待の連鎖を起こさないために、著者の模索が始まった。毒親にならないために、親ができることは何なのか考える。
子どもに過干渉な母親と、子どもを溺愛しているが、妻に暴言を吐き、いざというときは頼りにならない父。不安な状況で過ごした著者は、大人になっても他人との距離感に悩みます。
毒のない母親になれなくても、とりあえず親より毒が薄れればいいという著者の結論には救われました。
大人といえどいつでもご機嫌でいられるわけではありません。それでも自分の思うようにならないことを受け止め、相手と自分を違う人間として尊重する努力には意味があるはずです。
小さな努力が、人間関係をよくしてくれるといいなと思います。
『NOと言えなかった私』武嶌波
著者はNOと言うのが苦手。わがままを言う子どもについ流されたり、夫に「してほしい」「してほしくない」を言えなかったり、そんな自分に嫌気がさしている。著者がNOと言えなくなったのは成育歴に問題があった。著者は少しずつ、NOと言える練習を積んでいく。
NOと言えずに、回避的、事なかれ主義的に生きてきた女性がNOを言えるようになるまでを描きます。
NOを言う練習として、スタンプカードが出て来ます。著者はセールスを断ると、自分のスタンプカードにスタンプを押していきます。スタンプがたまると、ご褒美をもらえるシステムです。
スタンプカードのやり方が上手くいった著者は、子どもにも成功報酬が発生する遊びをやります。遊びを通してできることを増やしていくところは面白かったです。
精神的に自立を求めた夫と離婚したいと言いますが、決定は先延ばしに。しかし、夫は言われて危機感を持ったのか、家事に協力的になります。
喜ぶのではなく、「こんなの家庭の主導権を争っているのと変わらない」と思ってしまう著者が興味深かったです。
NOと言えるようになる次のステップは、人と交渉したり話し合ったりするスキルを身に着けることなのかもしれません。
『ばあさんとの愛しき日々』なとみみわ
著者の夫の母、つまり義母である「ばあさん」は、認知症を患い忘れっぽくなってしまった。著者と夫はばあさんを介護しながら、彼女の行動を観察している。できないことが増えていく中でも、家族の愛らしさ、面白さを描写していこうとするコミックエッセイ。
明るく前向きな一方で、老いた家族を見つめる悲しさも伴う作品でした。
著者の義母は認知症によって忘れっぽくなったり、失敗をごまかすようになったりします。それを優しくユーモアあふれる形で描くのがほっこりしました。
家族の介護は現実悲しいことも多いと思いますが、残された時間の良かった面を少しずつ拾い上げてくれるのが面白かったです。
もう弱ったきりなのかもしれないと思うと持ち直したり、認知症の人なりに努力するところが見られたり、人間の老いの奥深さも感じました。
周囲の人が助けてくれるのにも救われる心地がしました。
絵柄も柔らかくてかわいくてほのぼのしました。
一連の介護あるあるには笑ってしまいました。
『親が老いていく』ちかさ
著者の父がくも膜下出血をきっかけに一気に老け込んでしまった。体が弱ったのはもちろん、忘れっぽくなったり欲求のコントロールが苦手になったり。著者と母は父の変化に戸惑いながらも、福祉や医療の助けを経て、父親の老いに対して対策と受容をしていく。
大切な人が弱っていくのは悲しいなあと思う漫画でした。
頭がよくて優しい父親が、くも膜下出血をきっかけに弱っていき、記憶や感情にも異常が見られるようになります。
父親が愛しいという気持ちと、弱っていく父を見るのがつらいという感情の間で著者は悩みます。
著者は父親が50代のころの子どもであり、若いうちに父の老いを受け止めなければならない運命にありました。
理屈ではわかっていても現実を受け入れるのがつらい、というのが読んでいる側としてもわかってしまいました。
母親も夫が認知症であることをなかなか受け入れられず、病院に行くことを渋ってしまいます。
病気・治療
『私が不妊治療をやめたわけ』海原こうめ
30代前半に結婚した著者夫婦は、妻がチョコレート嚢胞を患ったことをきっかけに不妊治療を始める。しかしタイミング法ではなかなかできず、人工授精や顕微授精のステップに突入することに。質のいい卵子が採取できないことへの葛藤、男女の意識差に悩みつつ、五年間で下した決断とは……。
不妊治療を扱う病院ごとの価値観の違いや治療方針の違いも描かれていて面白かったです。
人工授精をしようにも卵子がしっかり育たない、採取できる数が少ないということに悩む作者が悲しかったです。まずスタートラインに立てない苦しさよ……。
子どもを授かるということは運要素が大きく、不妊治療をしたところで確実に達成できるかはわかりません。頑張っても報われないという悲しみが著者をさいなみます。
タイトル通り作品は不妊治療を諦めたところで終了します。運要素がある以上こういう選択をする人も、世の中にたくさんいるのでしょう。
「子どもがいる家庭」から「夫婦だけの家庭」に人生計画を修正するのは一朝一夕にはできず、わだかまりや後悔を抱えたままの結末でした。
でもそこが逆に美談にも悲劇にもならなくてよかったです。人生の営みという感じで。
『ずっと健康だと思ってた 34歳脳こうそく克服記』有田奈央・麻生夕貴
保育士をしながら絵本を描いていた著者は、ある日、手足がしびれて動かなくなる。それは、脳こうそくの予兆だった。入院した著者は、投薬とリハビリをしながら社会復帰を目指す。しかし、体はなかなかうまく動かず、不安が募っていった。
脳こうそくについては調べてだいたいは知っていましたが、脳こうそくになった人のリアルな反応、不安、揺れ動く心は想像の範囲外だったので興味深かったです。
特に生きることに感謝し明るい気持ちになる日と、暗い気持ちで沈んだまま過ごす日があるというのはちょっとわかります。私はメンタルの病気だからもともとなんですが、ふりこのように行ったり来たりするんだよね、心は。
それだけに歩けたときの喜びや、退院の時にリハビリの担当者に歌ってもらえた楽しさが、絵から伝わってきました。
コミックエッセイとしてはさらっとした感じで情報量は多くありませんが、最初に読む脳こうそくエッセイとしては悪くなかったと思います。
『おとなの発達障害かもしれない』森島明子
自分は発達障害ではないか? そう疑問に持ち、診断を受けた著者。発達障害の薬コンサータを試したり、漫画家をやめようと思ったり……日常を送りながら生活改善を目指すコミックエッセイ。
著者がADHDの薬コンサータを飲むところは興味深かったです。飲んだら「重力を感じる」というのは不思議な効果ですね。
そもそもADHDの人はいろいろなことに気が散ってしまって、ひとつのことに集中するのが難しいのだと知りました。私はASDだから逆に集中しすぎてほかのことがおろそかになるんですよね。
その「気が散ってしまう」特性をコンサータを飲むことで修正していくのはちょっと面白いです。
著者はコンサータが合わなくてやめてしまうんですが、それも含めて興味深いレポートでした。
情報としてはすでに知っていることが多かったですが、著者が生活を改善しようと積極的に動くところはよかったです。健康に気をつけたり、コンサータを飲んだり、カウンセリングを受けたり。やはり試行錯誤をする人に道は開ける。
その結果、少しずつ体調が安定していく著者を見ていると、私も困りごとを解決するためにがんばりたいなと思います。





























