
今回はジェンダーに関する新書をまとめました。
- 『壊れる男たち:セクハラはなぜ繰り返されるのか』金子雅臣
- 『同性愛と異性愛』風間孝
- 『ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか』牧野百恵
- 『結婚退職後の私たち:製糸労働者のその後』塩沢美代子
- 『夫婦幻想――子あり、子なし、子の成長後』奥田祥子
- 『男が介護する―家族のケアの実態と支援の取り組み』津止正敏
- 『ジェンダー史10講』姫岡とし子
- 『ルポ 妻が心を病みました』石川結貴
- 『女たちの韓流――韓国ドラマを読み解く』山下英愛
- 『炎上CMでよみとくジェンダー論』瀬地山角
『壊れる男たち:セクハラはなぜ繰り返されるのか』金子雅臣
セクハラによって「壊れる男たち」。セクハラをする男としない男はどう違うのか。著者は労働相談の仕事をしていたために、セクハラで訴えられた男たちを何人も見た。その醜くあさましい、実例をつづっていく。そして、セクハラをする男をめぐるジェンダーについて考える。
労働相談の仕事をしていた著者が、実際に見たセクハラ男性たちの実例を描き出す本。
実例はかなり生々しいので、性加害のトラウマがある人は読まない方がいいかもしれません。
どれも最低だけど「絶妙に現実にいそうだな……」と思ってしまうのがむなしいですね。
相手は自分に気があると思い込む、男たちの脳内と現実のずれが恐ろしいです。
セクハラする男はなぜするのか、著者はこのような仮説を立てます。
社会のジェンダー観の変化によって、男性は履かされた下駄を脱ぎ、分相応に生きることを迫られています。
しかし、「分相応に生きる」ことを受け入れられず過去の権威にすがってしまう人間がセクハラをするのではないか、と。
私は的を射ている意見なのではないかと思いました。
『同性愛と異性愛』風間孝
現代日本の同性愛者はどのような不利益を被っているのだろうか、同性愛者が受けた差別に関する法廷闘争を取り上げ、異性愛中心の価値観に対する疑問を投げかける。同性愛者は、「異常な」存在なのだろうか。日本における「見えない差別」を考える本。
紹介されている同性愛者への差別が嫌な気持ちになるもので悲しいです。こんな理不尽な扱いを受けることもあるんですね。
同性愛者の人たちはその間でエイズが広まったことで厳しい偏見にさらされます。しかし異性愛者でも野放図な関係を持てば性感染症の可能性は高くなるわけで、性別の組み合わせの問題ではないはずです。誰に恋愛感情を抱くかは関係なく性感染症対策はなされるべきですよね。
公的宿泊施設の同性愛者団体への差別もきつかったですね。その場の当事者がどんな思いをしたかと考えると心が痛みます。
同性愛への社会の対応や時代や文化によって一定しません。日本には同性愛者について宗教的なタブーが少ない一方、「存在しないものとして振舞え」という圧力は強いです。同性愛者が表に出てきて政治的な発言をすることに理解が薄いです。
また、多様な性のありかたがあるという価値観が生まれたことがいいことですが、「ファッションや立ち振る舞いが女性的なだけで、性自認は男性で恋愛対象は異性」という人間も安易なカテゴライズに巻き込まれることもあります。
『ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか』牧野百恵
『結婚退職後の私たち:製糸労働者のその後』塩沢美代子
『夫婦幻想――子あり、子なし、子の成長後』奥田祥子
夫婦関係を研究している著者は、何組もの夫婦を長年追跡調査・インタビューしている。幸せを求めて結婚した人々は、何度もインタビューをするうちに夫婦生活の苦しみや固定観念に囚われていた自分を吐露していく。観察を通して、夫婦それぞれが抱く「幻想」に迫る本。
「育児に参加する夫」「バリバリ働く妻」「事実婚の夫婦」と、最近は新しい生き方の夫婦も増えています。しかしこの本は、そのような生き方の現実を見せてくれる本です。
「育児をする夫」と「会社の中での出世」の板挟みになる夫、子どもを作らないと決めて結婚したのに「作ればよかった」と後悔する妻、介護と妻の病気で危機に陥る事実婚の夫婦。
「男性も育児をしよう」「女性も仕事で活躍できる」という、お題目自体が間違っているわけではありません。しかしそれを、実践できるかは別問題です。
そのようなお題目に惑わされ、固定観念に縛られ、取るべきコミュニケーションも取れなくなってしまった夫婦を、著者は冷静にかつ優しく観察します。
そういうエピソードばかり選んだのか、登場する夫婦は己の心を客観視し、一歩踏み出すところで終わります。現実にはうまくいかずに破局してしまう夫婦も多いでしょうが、救いのある終わり方に励まされました。
『男が介護する―家族のケアの実態と支援の取り組み』津止正敏
母、妻を介護しながら生活する男性たち。しかし、介護の仕事は女性中心のため、男性たちはどう介護の情報を共有していいか悩んでいる。介護する男性たちの現状を洗い出し、介護をめぐるジェンダー史も紹介する。また、著者は男性たちのつながる重要性も語っていく。
今、老老介護をしている男性たちは、「男は外でちゃんと働きさえすれば、家庭のことは顧みなくていい」という教育を受けた人たちです。
彼らは妻を介護することによって、家事や日常生活がろくにできないことに打ちのめされることになります。そこから生活に追われる自分を受容するのにいくらか時間がかかります。
個人の固定観念も、男性が家事、育児に無関心でもいいという風潮のせいでもありますよね。
モーレツに会社に尽くしてきた人々が多いせいか、男性はまた介護に仕事のように完璧を求めがちです。それが介護される側の価値観と対立することも。介護殺人をする人たちも、介護に対して真面目過ぎるタイプの人が多いです。
また、介護の現場では女性が多数派なので、男性としての悩みをどこで共有していいのかわからないという悩みもあります。
凝り固まったジェンダー観をいったん捨てて、自分がどうしたいか、そして介護される側にとって何が幸せなのか、話し合うことが大事だと思いました。
『ジェンダー史10講』姫岡とし子
「男は外で仕事をし、女は家で家事をする」というジェンダー観は当たり前のものではなかった。歴史をひもとくと、女と男の関係は一定でなかったことがわかる。一体いったいいつからジェンダー観は今のようになったのか。家族、仕事、戦争などテーマごとにヨーロッパのジェンダー観の変遷を解説する。
一言に女性に抑圧的な社会と言ってもいろいろあるんだなと思います。男尊女卑の社会であっても、それにどういう理由付けをするかは時代や文化によって変わります。そして人々は時代の雰囲気と強く結びついています。この本で取り上げられている女性も同じです。特に第一次・第二次世界大戦のあとは戦争に必要とされた男らしさ、女らしさが強調されることとなります。
こういう話を読むと人間の自由意思とは何なのだろうと思います。私もできれば他人の自由を認めたいですが、過去の国民国家の思想を無意識のうちに受けています。
ただぼんやりしているだけだと当たり前を疑わないから、ジェンダー史という形で歴史を別の視点から見るのが大事なのだと思いました。
ヨーロッパも禁欲主義的な部分だけではなく、性的に奔放な時期もあったようです。昔=性を抑圧するというのも偏見ですね。
『ルポ 妻が心を病みました』石川結貴
この社会には精神疾患の人々が多くいる。そして、彼ら彼女らを世話する人たちも。「精神疾患の妻を持つ夫」という存在に焦点を当て、インタビューによって問題を浮き彫りにしていく。精神疾患の妻を支える夫たちの孤独、葛藤、精神状態とはどのようなものだろうか。
男性特有の悩みや、愛しているからこその苦しみが描かれていて面白かったです。
愛しているからこそ簡単には別れられない、でも愛していれば病の妻を支える苦しみがなくなるわけではありません。男性たちの葛藤は続きます。
登場する男性たちは何度も選択を間違い、窮地に陥ります。
しかし、その選択の間違いはジェンダー観だったり、社会の偏見だったり、自分にはどうにもならない同調圧力によって発生したものです。
それを「個人が全面的に悪い」と言うのは良くないでしょう。
個人に向けて福祉サービスが充実するのはもちろんですが、多様な価値観、差別の否定によって個人が取れる選択肢が増える可能性があります。長丁場の対策にはなりますが、やっぱりそこも重要だなと思いました。
体験談形式であり、専門的な話はそこまで多くはありませんが、だからこそ読みやすかったです。
『女たちの韓流――韓国ドラマを読み解く』山下英愛
韓国ドラマのストーリーには、フェミニズムやジェンダー観の変遷が現れている。韓流ドラマの大ファンの著者が、韓流ドラマの歴史を追いながら、韓国の女性たちにとっての韓流ドラマを語る。
何よりよかったのは、著者の韓流ドラマを語るその文章が生き生きとしていたところです。「この作品を見てみたいな」と思うものばかりです。著者は本当に韓流ドラマが好きなのだろうなと思わせてくれます。
批評ではあるので、作品を批判するくだりもありますが、著者は韓流ドラマの文化自体は肯定的に捉えています。
本の本題である、韓流ドラマとジェンダーの関係も面白かったです。韓流ドラマはやたらとドロドロしていますが、そのドロドロは、韓国の家族制度の影響を受けています。
女性蔑視や婚外子差別、学歴社会や教育ママ、母性への過度な信仰などなど。
中には古い価値観の作品もありますが、全否定をせず、「当時の人には必要な価値観だったのだ」とすることにちょっとほっとしました。
この本に出てくる母性信仰にしても、女性に自由がなく、働いたり離婚したりすることが困難だった時代は、女性も自らそういう思想にすがらなければならなかったでしょう。
そういう状況で「母親である自分が報われる話が見たい」となるのは仕方ないと思います。
『炎上CMでよみとくジェンダー論』瀬地山角
企業が練って制作しているCM。しかし、それが特定の層の反感を買い「炎上」してしまうことがある。なぜ、そんなことが起こるのか。それは性別への固定観念がありありと描かれているからだ。ジェンダー的背景を解説し、炎上するCMのパターンを整理。CMの面白さと怖さを語る本。
著者は炎上するCMをパターン化し、四つの種類に分類します。「性役割の現状追認」を女性・男性の視点から、「訴求層の分断」、「訴求層の読み間違い」の四つです。
紹介されている炎上CMは、総じて雑というか、「女性/男性はこんなもんだろう」という固定観念に凝り固まっています。そもそもCMの中のシナリオが破綻しているものすらあります。
自分の中にある「普通の家庭」「普通の女性」「普通の男性」という概念を疑ったことがないんでしょうね……と思ってしまいます。疑ったことがないから新しい価値観についていけていないんです。
キズナアイなど、「性的」と批判された萌え絵キャラクターを中心した章もあり、オタクとしは耳が痛かったです。
Twitter見てるとしょっちゅうエロい絵が流れてくるから麻痺しているんですよね。
公的な場所で性的な描写をどこまで許すかというのは文化によるものが大きく、結局だれもが納得する正解はないのだ、と著者は説きます。そりゃオタクとオタクじゃない人とでも文化は全然違いますからね。
ただ、オタク多くの人が通る公的な場所や、公的なイベントで性的なイラストを出すのはあまりよろしくないだろうなと思います。
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