ブックワームのひとりごと

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願いを叶える神様と、人々の願いの結末―夜諏河樹 『アンテン様の腹の中』

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アンテン様の腹の中 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

あらすじ・概要

悩む人の目の前に、突然現れる謎の神社。そこにはアンテン様という神様がおり、思いのこもった大切なものを捧げる代わりに願いを叶えてくれるという。アンテン様の神社にたどり着いた人々と、その願いの顛末を語る連作短編。

 

願いを叶える人も叶えない人もいる物語

願いを叶える神様と、それに人生を狂わされる人間たち。ネタとしては先行作品がたくさんありますが、連作短編としてきれいにまとまっていました。

過ぎた欲を持って身を滅ぼす人々だけではなく、適度に願いを叶えて幸せになる人も、逆に何も願わずに自力で生きていく人も描かれています。願いに善も悪もなく、それを活かして人生を豊かにできるかはその人次第ということでしょう。

個人的に好きな回は人形師の男の回です。「愛されたい」と強く願いながら、愛が得られず、何度も伴侶を殺害してしまいます。おぞましさと同時に哀れさも感じました。

最後に彼に引導を渡した人間の、言い放った言葉は印象的でした。何も願わず、生きていけるのであれば、それも幸せかもしれません。

 

最終話では「アンテン様」が誕生した理由が明かされます。タイトルの意味も回収して、鮮やかな終わり方でした。

善悪の概念もなく願いを叶え続けるアンテン様の、ふとしたときに見せる人間らしさの正体が、ラストでわかった気がします。

 

巻数が少なくサクッと読める、それでいて描くべきことを描き切った秀作だったと思います。