ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

あるがままでは生きられない人々が行う「告白」―高殿円『カミングアウト』

このブログには広告・アフィリエイトのリンクが含まれます。

カミングアウト (徳間文庫)

 

あらすじ・概要

援助交際をする女子高生、ロリータファッションを卒業するか悩むアラサーOL、セックスレスに悩む主婦、夫の定年退職に何かをたくらんでいる妻。葛藤を抱えるキャラクターたちが、起こした「カミングアウト」とは

 

告白することが人生を変える

「ありのままでは生きられないが、かといって他人の望むようにも生きられない」という葛藤が一貫して書かれている小説で、面白かったです。

登場するキャラクターたちは善人ではなく、ちょっとしたことで他人を見下したり、偏見にとらわれていたりします。でも他人は自分自身の鏡であり、登場人物はまた己に呪いをかけています。

タイトル『カミングアウト』の名の通り、自分の言葉で自分を表現することで、新しい人生へ歩み出して行きます。

それは必ずしもハッピーエンドとは言えないものですが、痛快で救いのある、ユーモアのある終り方でした。

 

キャラクターの欠点の描き方も上手いです。例えばロリータファッションを好む亮子は、「自分はコスプレイヤーじゃない」とコスプレをする人を蔑みますが、この部分にはちょっと驚く結末があります。

志緒の煮え切らないセックスレスの夫も、亮子に言い寄ってくる後輩も、人に見せない意外な一面があります。人間の多面性を見せる作品だったと思います。

多面性があるからこそ、登場人物たちの「カミングアウト」が生きてくる、秀逸な描写でした。

 

ありのままでは生きられないという悩みと、それでも幸せになりたい、何かをつかみたいという欲、両方を肯定してくれる作品でした。面白かった。