ブックワームのひとりごと

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『日出処の天子』山岸涼子 白泉社文庫 感想

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日出処の天子 第1巻 (白泉社文庫)

 

あらすじ・概要

古くからの神道を信仰する人々と、大陸からもたらされた仏教を支持する人々が対立する古代日本。蘇我家の少年毛人(えみし)は不思議な王子、厩戸皇子と出会う。彼は超常的な能力を持ち、周囲の人を政治的に操っていた。一方で、彼には、「女性を愛せない」という、当時の家父長制社会では大きな欠点があった。

 

哀れで恐ろしい皇子の描写がつらくて怖い

面白かったです。男性が好きな皇子の悲恋という事前情報だけ見て読み始めたら、悲恋以上に家父長制の問題や、ジェンダーの問題、そしてそれでも許されない暴力的な愛情の浅ましさがありました。

 

主人公である厩戸皇子は、たまたま同性を好きになったといつより、最初から異性には性的欲求を覚えない、同性愛者として描かれています。

しかし、血縁ありきで繋がる社会では、子どもを持てない人間は一人前ではありません。

女性を愛せない、抱けない厩戸皇子は、有能で超能力があっても、社会に受け入れられない人なのは、切なかったです、

 

厩戸皇子はかわいそうな過去がある一方で、残酷でわがままなキャラクターでもあります。理不尽な理由で怒ったり、毛人と布都姫の間をとんでもない方法で引き裂こうとします。

その行為は現代と倫理観の違う作中でも許されない行為です。その証拠に、厩戸皇子は作中で大きな報いを受けます。

哀れでもあり、報いを受けるべき罪人でもある両面性が、厩戸皇子の魅力でした。

 

同性愛を扱った作品では雑な扱いになりがちな、異性愛者の女性キャラクターも、テンプレ的ではなく味わい深かったです。世界観上どうしても良妻賢母、男に従う女が求められます。その社会の中でも本人の思いを尊重してくれるキャラクターがいることが救われる重いがしました。また、ここぞというときの布都姫のたくましさはかっこよかったです。

 

悲恋ではありますが、悲しいだけ、かわいそうなだけでは終わらないすごみのある作品でした。おすすめです。