同人誌を加筆して長編に書き直したものだそうな。ガガガもそんな作品を出すようになったんですね。
あらすじ
売れないライトノベル作家、石川布団。人の言葉を理解する猫「先生」とともに、今日もひたすら小説を書く。打ち切り、出版、また打ち切りと、出口の見えない戦いに疲弊していく布団だったが……。
悪人のいない戦い
私小説に「どのくらいまで本当なのか」と聞くのはやぼだから置いておいて、作中に特別悪い人が出て来ないのがよかったです。
布団に冷たくする編集者たちにも、レーベルを守るためには、売れない小説ばかり出していくわけにはいかないという事情があります。
そしてもちろん、読者にだって選ぶ権利はあるのだから、買わない読者が悪いわけでもない。
布団も、「面白いものを書きたい」という揺るがぬ思想を持っているからそれも悪くない。
悪い人がいないのに、事態は停滞どころか悪化をしてしまう。そこがこの作品の世知辛いところです。
特定のものを「悪者」としない、公平な視点があったから読みやすかったです。
小説家の業
読んでいて思うのは、布団が趣味で小説を書く人だったらこんなにも苦しまなかっただろうということです。
ひとりでも多くの読者に作品を届け、作品を作ることでお金を稼ぎたいと思った時点で、どうしようもない業を背負ってしまうんですよね。
布団は、ちゃんと就職して、ときどき同人誌を作る生活のほうが、平穏で安定した人生を送れます。でもそうしないということは、それだけ「たくさんの人に読まれたい」という欲求は鮮烈で、麻薬のようなものなんでしょうね。
文章を書く人間でありながら、あまり「小説家になりたい」という人の考えがわからなかったけれど、これを読んで、少しだけその頭の中を垣間見た気がします。
どうしようもなく心の中から湧いてくる。「読まれたい」という欲求の話でしたね。
まとめ
非常に地味な作品でしたが、面白かったです。
人生大変だろうけど、どんな形であれ作者には小説を書き続けてほしいですね。石川博品がスーパーヒットする未来がどこかにあればいいなあ。