今日の更新は葦舟ナツ『ひきこもりの弟だった』です。
あらすじ・書籍概要
ひきこもりの兄と、彼を過保護に世話する母との関係がトラウマになっている「僕」。彼は初対面の女性、千草から結婚することを持ちかけられる。僕と彼女は、穏やかに生活を送っていくが……。
誰もが地獄の中にいる
いやあ暗かった。心に余裕があるときに読むことをおすすめします。
ひきこもりの兄と、彼と共依存関係に陥っていく母親の描写がリアルでとても辛かったです。
回想と平行して、主人公の妻千草との現在の関係が描かれていきます。何か訳ありらしい彼女と、自身もひきこもりの兄によるトラウマを抱える主人公。おだやかで優しいようでいて、いつ壊れるかわからない不安定なふたりにははらはらしました。
終盤にかけて、登場人物の真意が次々と明かされていきます。
母と兄をずっと憎んでいた主人公。しかし彼らもきっとそれぞれの地獄の中にいたんですよね。
だからと言って他の人の地獄を背負う必要なんてないんですけど。知ってしまったら何かできなかったのかと思うのは止められないでしょう。
みんなが内なる地獄によって、誰かを傷つけた。彼らに責任があるかと言われれば微妙です。それが罪であれば傷つくことすらだめになってしまいます。本当にやるせないですね。
しかし、面白いことは面白いんですけどひとつだけ不満があって……エピローグ、要らなくない? これは千草と主人公の話であって、ぽっと出のキャラとの関係なんて見たくなかったです。それともこれは私が知らないような解釈があるのでしょうか。
エピローグ手前のあの一文で終わっていたほうが好みでしたね。
まとめ
エピローグの意図がよくわからなかったんですが、それ以外は面白かったです。暗くて悲しくてやるせない話だけれど、人をうまく愛せないふたりが寄り添おうとするところは美しい光景でした。
人を選ぶけれど私は結構好きです。