ブックワームのひとりごと

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音楽の何でも屋が歌姫とともにアーティストの問題解決―杉井光『神曲プロデューサー』

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神曲プロデューサー (集英社文芸単行本)

今日の更新は、杉井光『神曲プロデューサー』です。

 

あらすじ・概要

作曲やスタジオミュージシャン、ライター仕事など、「音楽の何でも屋」で食っている蒔田。彼は自分のデビューシングルの盗作疑惑をきっかけに、歌手リカコとつるむようになる。仕事として音楽関連の問題を解決しているうちに、蒔田はリカコの苛烈な性格を知っていく。

 

商業と芸術の間に生まれる葛藤を描く

序盤は主人公の思うようにとんとん進んで、このままチートっぽく進んでいくのかと思っていました。しかし後半からやりきれない展開やうまくいかない葛藤がメインになり、どう転ぶのかはらはらしてきました。

 

連作短編風のストーリーの大きな筋となっているのは、25歳バツイチの歌姫リカコと主人公蒔田の関係です。

軽薄な今どきの若者に見えて、音楽に対して重いこだわりを持ち、そのこだわりゆえに他人に迷惑をかけたり傷つけたりしてしまうリカコ。そしてそんなリカコにアーティストとしても女性としても惹かれていく蒔田。ふたりが恋愛だけではなく、音楽という絆で結ばれていく物語です。

 

盗作疑惑の相手、余命いくばくもないベーシスト、才能にあふれつつも問題児な新人歌手らとなかば格闘するように交流しながら、蒔田は「作品を作って売る」仕事について回る闇を背負っています。そんな蒔田がかっこよかったです。一方で、商業的な「大人の事情」を一蹴してしまうリカコも危うい輝きがありました

確かにリカコみたいに生きられたら、理想なんですよね。売れるために自分の意思を曲げるなんてクソだ、と心から言えればいい。でも作りたいものを作るにはお金が必要で、お金のためにはニーズを読まなければいけないんですよ。だからこそ蒔田のような仕事が必要とされます。

リカコと蒔田というコンビによって、商業と芸術の間にある葛藤が描かれているところが好きでした。

 

ところで商品説明にはラブコメと書いてあるんですが、編集者はこの作品本気でラブコメだと思っているんですか? 笑える要素はほとんどないのですが……。

神曲プロデューサー (集英社文芸単行本)

神曲プロデューサー (集英社文芸単行本)

  • 作者:杉井光
  • 発売日: 2014/04/03
  • メディア: Kindle版
 
楽園ノイズ (電撃文庫)

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  • 作者:杉井 光
  • 発売日: 2020/05/09
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