今日の更新は、こうの史代『さんさん録』です。
あらすじ・概要
妻を亡くしてからすさんだ生活をしていた老人、参平は、息子詩郎一家と同居することになる。息子夫婦に代わって家事をやると申し出た参平は、妻の残した家事の手引書を読みながら、日々の仕事をこなしていく。その風景に、詩郎をヘッドハンティングしに来た仙川も加わって……。
老人が家事によって居場所を見出していく
非常に「絵で語る」要素の強い作品です。せりふは少なくて、サイレント漫画が続くシーンも多いです。それなのに、非常にストーリー豊かに見えます。
「認知症になりかけているのではないか」と疑われるほど弱っていた参平は、家事を通して息子一家の家に居場所を見出していきます。妻が残した記録を通して妻を感じ、なぐさめにして生活を営んでいます。
この少しずつ参平が元気になっていくところが、自然な形で描かれていてよかったです。面白いとか切ないではなく、心の中にしっくりくるような感情です。なるほどこれは「日常もの」なんだなあ。
既婚者である詩郎に思いを寄せる仙川と、妻を亡くした哀しみが癒えきらない参平のごくごく淡い恋心も切なかったです。
ふたりは大人なので恋に溺れることはそうそうできませんが、お互いに言葉を交わし、いたわることで少しだけ救いを感じているんですよね。
年の差としても境遇としてもこれからラブラブするような恋愛関係ではないのだろうけれど、寄り添っているふたりは美しかったです。
あと虫好きの娘、乃菜がいいキャラをしていました。目つきが悪くてあまりかわいくないんですが、その周りに媚びない姿勢が逆にいい。虫の死骸を拾ってきたり、ナメクジやカエルなどのおかしなぬいぐるみを収集していたりで個性的でよかったです。
しかも登場人物の誰も乃菜のことを「おかしい」と言わないところが優しいですね。
日常の営みこそがメインであり、ストーリーそのものは単純です。
でもだからこそ読んでいて心が整うような、心地よさがありました。