あらすじ・概要
ヒーローになりたい大河は、演劇を志して演劇部に入る。そこにいたのは美しい女装少年、優。大河は優に一目惚れをし、アタックする。しかし優は「生まれた性別を間違えたのではないか」という葛藤の中にいた。優との交流を重ねるうちに、単純だった大河の心境にも変化が現れ……。
ジェンダーや偏見に真面目に取り組んだBL
ものすごく真面目なBLだ……。
世間では「自分らしく生きていい」という言葉が繰り返されるけれど、この作品では「何が自分らしさかわからない人間はどうすればいいの?」という重いテーマが根底にあります。
優は女の子を望んだ母親によって女装させられて育ち、さらに性的暴力を受けた経験もあります。それゆえに男の自意識を持っているのに自分自身が「男」であることを肯定できないでいます。その態度に演劇部を始めとする周囲も戸惑い、どう扱っていいか悩みます。
あるがままでいるのはとても難しいし、あるがままを周囲が受け入れるのも難しい。それを演劇という「他者に成り代わる」題材を持って表現するのがとても的確だと思います。
異性装について真剣に考えないとこんな作品描けないですよ。
主人公大河も一見単純な面白熱血キャラなのですが、彼も優と出会って、自らの価値観を問い直し成長していきます。他人の表面だけ見てきた彼は、少しずつ人間の深いところに興味を持つようになります。
こう書くとBLはメインではないんかいという感じになりますが、内容はちゃんとBLしてます。主人公ふたりはつらい過去を抱えつつもかわいげがあって、惹かれあう姿が大変ほほえましいです。オマケ漫画はがっつり初々しい恋愛しててかわいかったですね。
テーマが骨太なので気楽に読めるタイプの作品ではないんですが、今の「普通のBL」が合わないなと感じる人にこそ読んでほしいです。世の中のジェンダーや偏見や、あるがまま信仰にがっつり取っ組み合って作られた作品だと思います。
大変面白かった! おすすめです。
あとから知ったんですが、この著者はすでに亡くなられているらしいです。新作読めないんですか? とても悲しい。