ブックワームのひとりごと

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平凡なゲーム好きの少年が父の家出をきっかけに異世界へ行く―宮部みゆき『ブレイブストーリー (1)幽霊ビル』

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ブレイブ・ストーリー (1) 幽霊ビル (角川スニーカー文庫)

 

あらすじ・概要

ゲーム好きの小学生の亘は、両親と平穏に暮らしていた。ある日、亘のクラスに芦川という転校生がやってくる。芦川に話しかけようとする亘だったが、冷たくあしらわれてしまった。そんな折、亘の父親が家を出て行ってしまう。彼は亘の母と離婚し、新しい家庭を作ろうとしていた。

 

大人のだめさがリアルすぎる

久しぶりに読み返したくなって、角川スニーカー文庫版を入手しました。覚えている以上に大人がひどい導入でした。

怖いのは、亘の父も不倫相手も、母も、「日常生活では普通で、むしろ親切な人なんだろうな」と思うところです。そういう普通の人だって歯車が狂えばおかしくなるし、平気で子どもを傷つけます。その普通の人に宿るだめさが存分に出ています。

ブレイブストーリー自体は前向きで、メッセージ性の強い作品だと思いますが、この辺のリアリティがあるからこそ他の作品より頭一つとびぬけることができるのだと思います。

 

亘が芦川美鶴に出会うボーイミーツボーイの過程も、ろくでもないけれど面白かったです。芦川は本当に腹の立つやつだけど、最後に亘を幻界に誘い出すところが義理堅いですね。

冷酷ささえある芦川の、人間的な部分に触れたようでほっとしました。

 

その上文章が上手いです。実用的な、意味の通りやすい文章でありながら、さらっとすごい描写を混ぜて来ます。亘が父親と一対一で話すシーンで、絶望を落ちていくイメージで描き出すのがとても好きです。亘の想像の世界ではあるんですが、亘の脳内映像でどれだけショックだったかわかるようになっています。

 

再読なので続きは知っていますが、それでも楽しみに思える導入でした。