ブックワームのひとりごと

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精神疾患をテーマにしたコミックエッセイおすすめ10選

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自分が精神疾患持ちなのもあり、精神疾患をテーマにしたコミックエッセイは、見かけたらなるべく読むようにしています。今回は、その中からおすすめのものをまとめてみました。

 

 

神様の命令に従っていたら病気になっていた『高校生のわたしが精神科病院に入り自分の中の神様とさよならするまで』

ごく普通の高校生の著者は、ある日神様の声が聞こえるようになった。神様の「〇〇を触れ」という命令に従うと、心が安らかになる。しかしそれに従っているうちに、どんどん命令は増え、食事まで禁止されてしまう。著者はどんどんやせ細り、家族との関係も悪化していく。

病気によって特定の行動を繰り返してしまうことを「神様の言うことを聞く」と表現し、自分自身が生み出した神様に操られていく。精神科病院に入院するまではどうなるんだろうこの話……とはらはらしました。

精神科に入院したことをきっかけに、病気が快方に向かったのは本当によかったです。どんな人も精神疾患になってしまうことはあると思わせてくれる本でした。

honkuimusi.hatenablog.com

 

几帳面な性格から強迫神経症へ『几帳面だと思っていたら心の病気になっていました』

几帳面で心配性だった著者。しかし鍵や火元の確認、手洗いなどを妄執的にやってしまうようになった。不安が過ぎてひきこもってしまった著者は、心療内科を受診する。そこで得た診断は「強迫神経症」だった。著者は病気を克服するためいろいろな方法を試す。

著者が描く心理描写が秀逸で、ただの「心配性」がどんどん悪化していくさまは怖ささえ覚えました。自分で見たもの、触ったものが信用できなくなっていく恐ろしさ。著者はきちんと鍵をかけても、虫がいないよう野菜を洗っても、「危険な要素があるのではないか」と延々と悩んでしまいます。

前半の描写が真に迫っていたゆえに、後半の著者が病気と向き合い、少しずつ対策を取っていくところには安堵しました。道のたばこを踏み消して回るのには全速力で走ると地面が気にならない、とか、接触への恐ろしさは手袋をする、とか、行動を変え、恐怖や不安と付き合い改善方向へ向かうことを目指します。

最後は希望のある終わり方でよかったです。

honkuimusi.hatenablog.com

 

統合失調症の女性と年上男性のラブストーリー『人生仮免中』

元AV女優で、統合失調症を患う著者は、20歳以上年上の男性、ボビーと恋に落ちる。一緒に暮らすふたりは、けんかをしつつも愛し合っていた。しかしヨガを始めたことをきっかけに勝手に減薬した著者は、統合失調症を悪化させ、歩道橋から飛び降りて大けがをしてしまう。

闘病ものかと思ったらラブストーリーでした。病気ゆえにいつも行動がおかしく、妄想や幻覚に悩まされている著者を、恋人のボビーさんは献身的に支えます。しかし年の差ゆえに、「彼女にはもっと若くていい男性がいるのでは」という思いが抜けず、それで何度もけんかをしてしまいます。

著者も病気のことを踏まえてもいつも変だし、ボビーさんもやくざな仕事をしていた過去があって、問題のない人ではありません。

しかしそんなふたりが、支え合い、愛し合うことができるというのは、ひとつの救いでした。

honkuimusi.hatenablog.com

人間仮免中

人間仮免中

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統合失調症の美大学生の苦労を描く『統合失調症日記』

高校生のときに統合失調症になった著者。幻聴や幻視、妄想など、病気の症状に悩まされ、暴れたり独り言を言ったりを繰り返していた。今は症状を薬で抑えつつ、美術大学に通っているが……。

幻視や幻聴の描写が興味深いです。著者の幻聴は男、女、子供の三人で、キャラクター性があります。頭の中でやかましく会話し、悪口や罵倒をするため、衝動的に「うるさい」「黙れ」と言ってしまって不審がられることもあります。

しかし一方で、統合失調症の人はこんなにやかましい世界に生きているのか、とびっくりしました。いつも罵倒され悪口を言われ、しかもそれが自分以外の誰にも聞こえない。それはすごく孤独だし、腹立たしいでしょう。いつもイライラしているのにも納得がいきます。

統合失調症の人の主観の世界を垣間見られて面白かったです。

honkuimusi.hatenablog.com

 

精神科病棟ってこんなところ『こころを病んで精神科病院に入院していました』

刺激への依存によって統合失調症になってしまった著者。精神科の閉鎖病棟へ入院し、そこで淡々とした日々を過ごす。患者の人たちや、看護師さんとの交流を経て、著者の病状は少しずつ良くなっていく。

あまり起伏がなく淡々とした語り口なんですが、そこが逆に読みやすくてよかったです。自分自身の感情に少し距離を置いて、観察する視線で書いてあります。保護室に入るなどの怖いシーンも、作中は混乱しているんですが、描いている著者自身は冷静です。

著者が入った閉鎖病棟は、うつの人がほとんどだということもあって、静かな環境だったようです。そこでやりとりする会話、問題になることは非常に庶民的なもので、壁の中も外もあまり変わりないんだなと面白くなりました。

閉鎖病棟にも一種の「日常」があって、誰かの異常は誰かの普通なのだなあということを再確認しました。

honkuimusi.hatenablog.com

 

パニック障害を抱えながらの子育て『パニックママでもいいじゃない』

著者は第一子妊娠中に電車や外出先でパニックを起こすようになる。出産後もそれは続き、病院に行ったところ「パニック障害」だと診断された。子育てしながら薬を飲み、治療を試みる著者だったが……。

私もパニック障害の人と何人か会ったことがあるんですが、パニックを起こしていないときはわりと普通なので、それゆえの大変さがありますよね。普通のときはすごく普通で、でもやっぱり仕事は休んでしまう。パニック発作がどこでも現れるわけではないから、見えている部分だけでは病気とわからないんですよね。

パニック障害とときに戦い、ときに受け流す日々は、大変だろうけれどユーモラスで、肩の力を抜いて読めました。子育てというストレス過多な現状と、パニック障害とどう付き合っていくか。ベビーシッターや家族など人の力を借りながら、なんとか前に進んでいく著者はかっこよかったです。

honkuimusi.hatenablog.com

 

 

お酒に頼ってアルコール依存症になった漫画家『アル中ワンダーランド』

ブログをきっかけにイラストレーターの仕事を始めるものの、多忙で家事がままならなくなった著者。お酒でそれを解決したことをきっかけに、アルコール依存症のスパイラルにはまっていく。

アルコール依存症のエッセイコミックではあるんですが、お酒の怖さを訴えるとか、読者に禁酒を勧めるとか、そういう説教臭いシーンはほとんどありません。あるのは著者、まんしゅうきつこのお酒による奇行のオンパレードです。トークショーでポロリする、駅のホームでお酒を飲む、など……。

エピソードにインパクトがあるから、特に説教臭いシーンを入れなくても「お酒を飲みすぎるのはやめよう」となるんですよね。

しかし、本人の行動にツッコミが入ることがあまりないので、一種のシュールギャグマンガのようにも読めます。笑いたいけど笑えない、読み終わって微妙な気持ちになる不思議な漫画です。

 

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双極性障害の著者が死にたい気持ちを分析する『となりの希死念慮さん』

双極性障害を患っている著者は、昔から「死にたい」という考えに取り憑かれていた。しかし、周囲の支えてくれた人たちのためには死にたくない。「死にたい」から「死なない」ために、己の中の希死念慮と語らい和解を試みる日々が始まった。文章と絵で語られるメンタルヘルス系エッセイ。

希死念慮がすっきり治りました! とか前向きになれました! とかではなく、著者が未だ迷いながらぐだぐだ考え込んでいる話ですが、これはこれで読者に誠実な内容だと思います。

ささいなことで「死にたい」と言うのは、周りに「考えすぎだよ」と言われがちですが、当人はその「考えすぎてしまう」ことがやめられないんですよね。

根暗な精神疾患の人間が「考えすぎるな」と言われても無理なので、考えすぎる自分とどう付き合っていくかというのがこの作品のテーマです。

遠回りを繰り返しても生きようとあがく人間を描いた作品でした。

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不安障害になってしまった漫画家が夜の街を散歩『夜さんぽ』

不安障害になってしまった漫画家でイラストレーターの「いこまん」は、同居人であり恋人である「トリさん」と夜の散歩を始める。暗い夜道の中、何かを見つけたり、コンビニや食堂に寄ったり……。病による不安とともに、夜の世界を彷徨するコミックエッセイ。

精神疾患となった主人公を彼氏が支えるというある意味「理解のある彼くん」話ではあるかもしれません。しかし作品は病気は治癒することより、不安障害の人間が見た夜の世界を漫画として描き出すことを重要視しています。

とても美しい作品ですが、人生なので実際には美しいことばかりではないとは思います。だけど精神の病と暮らす日々を、こういう美しい切り取り方をして見せるところに救いを感じました。病はつらい、苦しいけれど、それでも何もない毎日ではないのだと。

ストーリー性が少なく、本当にただただ散歩をしているだけの作品でしたが、読んでいてとても癒されました。

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デザイナーがうつになって会社に復帰するまで『ぼくのうつやすみ 『うつ』になったけど帰ってこれました』

憧れのゲーム会社にデザイナーとして入社したものの、忙しさや仕事のストレスからうつを発症してしまった著者。休職して家にいる間、無気力になったり自分を責めたりする。しかしうつをきっかけに少しずつ考え方が変わり、社会人としての生き方も変化させることとなる。

うつをきっかけに、著者は嫌でも人生を変えなければいけない必要に迫られます。「こうあるべき」という価値観を捨てるのは、結構辛いものです。しかし著者は、職場で配置換えを受けた後、新しい自分の居場所を得ます。その過程は読んでいてほっとするものがありました。

クリエイター業界=仕事は忙しいもの、という固定観念が強くて、ほどほどの仕事の負荷で雇ってもらえる場合が少ないと思います。だから著者みたいな働き方が許されれば、いろんな人が得するのではないでしょうか。

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以上です。気になるものがあったら読んでみてください。