ブックワームのひとりごと

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身内を立て続けに亡くした著者が自分の父親の人生を振り返る―時田『身内の死比較漫画』

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身内の死比較漫画

 

あらすじ・概要

著者の元に届いた父の訃報。末期がんに侵されていた父は、DV気質ゆえに著者の母と離婚し、今は孤独な人生を送っていた。良い思い出のない父親の葬儀に参加し、何だかんだ彼を弔った著者だったが、しばらくして今度は祖父が危篤状態に。短期間で身内の死を立て続けに見た著者は父親の人生に思いをはせる。

 

ちょっと長めの短編くらいの分量で、サクッと読めるんですが、とにかくインパクトの強い漫画でした。

 

著者の父はDV気質で離婚され、年老いても近所の飲食店に嫌がられているなど、わかりやすく行ってしまえば「嫌なおっさん」です。しかし自分が末期がんに侵されていることを知ると、息子を呼び出し、食事をし、お金を渡しました。

良いエピソード、というわけではないんですが、著者から見た父親は人間の弱さ愚かさを感じます。DVやモラハラ自体は悪ですが、それを実行する人は絶対悪ではなく、むしろ絶望的な弱さを抱えています。淡々とした作風ながら、暴力を振るう側の弱さを丁寧に切り取っています。

著者の父親もまともな愛情表現ができれば孤独にはならなかったのでしょうが、できないからこそのこの末路なのでしょう。

 

あまりえらいえらくないで語る問題ではないかもしれないのですが、父親にいい思い出がないのに、きちんと父親の葬式に出て、その人生に思いをはせている著者は十分えらいです。もうこれで弔いなのではないでしょうか。

ラストシーンで父親についてさまざまな疑問が浮かび上がり、「でももう何も聞けないのだ」と気付く著者の姿は、親を弔った将来の自分を見るようで印象的でした。

 

もう親を見送った人も、まだの人も、ひとつの決着のつけ方として読んでおいてほしい漫画です。