ブックワームのひとりごと

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母親に虐待された男性が母親との関係に決着をつけるまで―歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』

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新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも (角川書店単行本)

 

あらすじ・概要

不安定な家庭に育ち、母親から暴力と暴言を受けていた著者。長じて一流企業に入社するが、そこでかつての母親のようになっている自分に気づく。そんなとき、手を差し伸べてくれたのは友人たちだった。同性パートナーも得て自分の幸せを送っていた著者は、母親との関係に決着をつけることになる。

 

母親に愛されなかった男性を周囲の縁が助ける

『母の形見は借金地獄』の方を先に読んでしまっていたので一部内容がかぶる部分もありましたが、著者が母親を許そうと思った家庭や、周囲の人々の支えについて描かれていて興味深かったです。

honkuimusi.hatenablog.com

 

必死に働くうちに周りを考えなくなり、そんな自分が「母親に似ている」と気付いてしまった著者。苦しむ彼を救ったのは人間関係でした。

自分がありのままでいても傷つけず、傷つけられない関係って素敵だなあと思いました。

また、親に恵まれなかった著者を家族として支えた祖母のエピソードも面白かったです。親には愛されなくても、人の縁が少しずつ著者を助けていくのが印象的でした。

 

著者は最後に心を病んだ母親を哀れみ、母の元に戻って彼女を世話することになります。こんなひどいことをした母親の世話をしてあげる必要はないと思いますが、それで本人が納得しているなら他人がとやかく言うことでもないと思います。

母親もひとりの弱い人間なのだ、と思うことで呪縛が解けたのかもしれません。

 

毒親エッセイはいろいろなものがありますが、やっぱり最後に著者が自分自身を俯瞰し、ネガティブな気持ちもポジティブな気持ちも客観視できるオチだと安心します。