あらすじ・概要
レバノン内戦ゆえに故郷を離れ、学生をしていた著者はあるとき能楽師の息子と出会う。彼と結婚することになった著者は、能楽における古いしきたりや価値観に戸惑いつつも夫を支える。夫は著者とともに、新しい能楽のスタイルを表現するため活動していく。
成功の結果ではなくて過程を書いてくれ
著者は唯一無二の経験をしており、その部分は興味深いのですが、一冊の本としては粗も多いです。
大きな欠点は、成功した結果の話ばかりを重点的に書いて、その過程の話ははしょってしまっていることです。
「こういう人の前で能を披露した、こういう賞を取った」という話はぶっちゃけた話をすると著者以外でも言えることであって、読者が知りたいのはそれに伴う過程の話だと思います。
過程が興味深く、面白ければ客がローマ教皇だろうとその辺のおっちゃんだろうとどうでもいい話なんですよね。
むしろ社会的立場のある人々に能を見てもらって嬉しい! ということを強調すると著者は権威主義者なのか? と思います。
もちろん「苦労をした」という言葉には嘘はないでしょうが、こんな書き方をすると自慢話として受け取られてしまっても仕方がありません。
能の話がそんな調子だから一番面白かったのがレバノンで認知症になってしまった母をどうするかというくだりでした。この部分は著者にしか書けない経験だと思います。遠距離で母を思う気持ち、それでいて24時間母を見ていられないという葛藤が描かれていてしんみりしました。
でもそこはこの本の本題ではないところなので、実質タイトル詐欺みたいなものですね。