あらすじ・概要
アセクシャル(他人に恋愛感情を持たない人)で性別違和を抱えて生きてきた著者。自分が家族とのわだかまりを抱えていたことから、「家族が欲しい」と思い、精子バンクでの妊娠を目指す。精子バンクを使った妊娠のややこしさや、妊娠した後の社会の無理解について描く。
女性が一人で子どもを産む可能性とこれから
面白かったですが、手放しで肯定できない部分もあり、複雑な気持ちになりました。
まず、最初に言っておくと、私は女性が精子提供をしてもらって出産すること自体には肯定的です。今の出産にまつわるシステムは、戸籍制度や家族制度を前提としすぎています。女性が子どもを授かること=結婚という思想は女性の人生の自由を奪います。
著者もまた、性的違和(自分の身体の性がしっくり来ない)をかかえながら、家族がほしいと思い精子バンクで精子提供を受けて出産します。
凍結された精子の寿命は14日で、その14日以内に排卵日が来なければなりません。そのため上手く計算しないと精子を無駄にしてしまい、最初からやり直しとなります。
周期はあるとはいえ、女性の排卵日を完全にコントロールはできないのでこの問題は大変そうでした。
めでたく妊娠した著者ですが、役所に「精子提供で妊娠した」というと妄想と勘違いされてしまい、シェルターに収容されてしまいます。
精子バンクで妊娠した人がめったにないこととはいえ、この展開はひどすぎます。人権侵害で訴えたら勝てるのではないでしょうか?
著者が子どもを持てたことはよかったと思いますが、精子提供にまつわる問題点もあります。特に気になるのは精子提供を受けて妊娠した子どもに障害があったら親が受け入れられるのかという点です。著者の子も頭に障害があるらしいと医者に言われます。著者は需要をしていましたが、「優秀な子がほしい」と思って精子提供を受ける人は受け入れられるのでしょうか。
何にせよ、生まれてくる子どもに罪はないのだから、子どもの不利益になるようなことは減らしたいところです。子どものための制度を作ることを望みます。