今日の更新は佐藤多佳子『聖夜』です。
『黄色い目の魚』に続いて同じ作者の本を読んでますが、別に狙ったわけではありませんでした。たまたま。
あらすじ
キリスト教系の学校でオルガンを弾いている一哉。不倫して出て行った母親や、完璧な父親への屈折した思いから、冴えない毎日を送っていた。そんな中、オルガン部に外部からコーチがやってくる。オルガン部は、九月の文化祭でオルガンの発表を行うことになる……。
子どもの視点で描かれる夫婦の断絶
この作品で印象的だったのは、一哉の視点で描かれる、牧師夫婦の断絶です。
一哉の父は夜遊びをした一哉を叱り、その流れで別れた妻の話になります。彼はかつて、不倫した妻に、「神様を気取ってる」と言われてショックを受けたことがありました。
「いつも、彼女のためにと考えてきたつもりだ。それすら、重荷でしかなかったようだ」
「お父さんから、神様を引き算してみたかったんじゃないのかな、お母さんは」
(中略)
「どうして、そんなことができる? 神はいつもわれわれと共におられるのに」
(P165)
一哉の父はすごくいい人なんだな、と思うと同時に、普通の人との断絶を感じるシーンです。善意や正義感を強く持っているがゆえに、相手のネガティブな感情には鈍感になってしまう。
不倫は良くないけれども、ふたりが別れるのは必然だったと思いました。
それから、一哉の父の「罪」について書かれるのですが、ここは見どころだと思うのでネタバレはしません。しませんが、この一哉の父の語りにはぐっと来ました。いい人の中の、苦しい感情っていいですよね。
オルガンを弾くシーンはとても美しかったです。パイプオルガンはNHKのニューイヤーオペラの放送くらいでしか聞いたことはないんですが、生で聞くともっと荘厳なんでしょうね。
オルガンの美しさと対比して、ぐるぐる悩んでいる一哉の感情が強調されているところも好きでした。
まとめ
きれいで荘厳な話だけれど、それだけではない、苦しいところも優しいところもある話でした。
時間を置いてまた読み返したくなる作品だと思います。
同じく学校と音楽をテーマにした、『第二音楽室』も読んでみたいですね。