あらすじ・概要
意思を持ち動く宝石たちが暮らす世界。落ちこぼれのフォスフォフィライトは博物誌をまとめる仕事を任される。しかしいい加減なフォスは仕事に身が入らず……宝石をさらう月人たちとの戦いを重ねるうちに、フォスは体も心も変容し続けていく。
壮大なスケールで承認欲求とメサイア・コンプレックスに囚われるキャラクターを描く
お、終わった……。何を言うのもやぼになりそうな作品でした。
スケールが大きな作品でありながらミクロな視点でも楽しめました。それはフォスフォフィライトが人間味のある愚かさを持ち合わせたキャラクターだったからではないでしょうか。
フォスフォフィライトは常に誰かを助けたがっていますが、他人がどういう助けを欲しているかには気づいていません。そして他人を助けようとして空回りしています。
メサイア・コンプレックスなんですよね。メサイア・コンプレックスは自分を救世主だと思い込んで行動することですが、転じて支援職や医療従事者が相手を助けることに固執してしまうあまり、本人の意思を無視して不利益な状態になることを指します。
フォスフォフィライトの誰かを助けたいという気持ち自体に善悪はないですが、フォスフォフィライトは人を助けるとききちんと話し合ってどう助けてほしいか聞いていないので、空回りし続けます。
シンシャに必要だったのは救世主ではなくただの友人です。カンゴームもフォスが一番好きでなくなったとしても好意でアドバイスをしてくれています。そのことにフォスは気づきませんでした。
他人を助けようとしても本人の意思をちゃんと聞いていないのであればどうにもなりません。
一方で、フォスの過ちというものは人間に普遍的に起こりうるものです。だからこそフォスは主人公足りえます。承認欲求に狂わされ、対話を忘れて、自分本位になっていることにも気づかない。宇宙的スケールでやっていることを除けば、誰もが向き合わざるを得ない失敗です。
「フォスのやったことはよくないけど同情してしまう」という感想に私も共感します。
壮大で哲学的な物語でありながら、エンターテインメントとして読めるのは、フォスと言うキャラクターの人間味によるものでしょう。
なかなかない作品で、面白かったです。