あらすじ・概要
夫が行方不明になった妻かなえは、しばらく閉じていた銭湯を開けた。そこに手伝いにやってきた堀という男は、無口で働き者。彼と働きながら、かなえは夫や自分のことをわかっていなかったことを思い知らされる。
ゆっくりだけど濃密な漫画
うわー、これ面白い!
一見展開が遅いように見えるけれど、キャラクターの何気ないしぐさや行動に意味が込められていて濃い話です。
銭湯を経営する主人公、その夫、銭湯にやってきた手伝いの男。三人はそれぞれ秘密を抱えています。最後にそれが明かされたとき、悲しいけれどあたたかい気持ちになりました。
外から見える感情はたかが知れていて、人間のことはわからない。でもわからないことを知っていれば、謙虚になれます。そういう意味で希望のある終わり方でした。
◎ここからネタバレ◎
この作品の伏線についてもう少し書きます。
たとえば序盤で主人公が服ごと湯船に沈むシーンがあります。読み進めていくと、彼女は過去にさらわれた友人を見捨てたトラウマがあり、「水に沈む」はその象徴的行動なのだとわかります。友人の遺体は、池の中で見つかったのです。
うさんくさい探偵が実は有能だったり、主人公の夫の真意が「嘘」だったり、一筋縄ではいかない、独特の人間観が魅力的でした。
よみがえった記憶によって倒れ、「殺してくれ」と伝えるかなえの姿は悲しかったです。彼女は心の奥底でずっと死にたくて、でもそれを表に出せないうちに自分が悲しいということすら忘れてしまったのでしょう。
全体的に文脈で示している部分が多い作品で、読むのに読解力が要求されます。それでも描写の胃とに気づいたときの達成感が楽しかったです。
- 作者:豊田 徹也
- 発売日: 2005/11/22
- メディア: コミック