あらすじ・概要
後宮の女奴隷たちとベリーダンスの興行をするようになったナクシュデル。彼女はクレボス皇太子から歓迎式典に誘われる。同じころ、リュステムの縁談が浮上し、その相手となるハディジェはナクシュデルに敵意をむき出しにしていた。ナクシュデルは、リュステムとの関係を考え直すことになるが……。
ちょっとしたシーンに倫理を挟み込んでくる
1巻に引き続き倫理が高いです。今回一番倫理が高かったシーンはこちら。
ハディジェに「家に招待するから歌舞曲をやってほしい」と言われ、そのこちらを見下した態度に怒っているナクシュデルに対してリュステムが一言。
「それにしてもお前らしくないぞ。遠慮しないではっきり言えばよかったんだ。自分達は見世物じゃないって」(P69)
優しい言葉と思いきや、それに対するナクシュデルの感想が、
自分達はまちがいなく見世物で、それで収入を得ているのだ――だからナクシュデルが否定したかったのはそこではなかったのだ。対価を払うべき行為を、自分達の無償の習い事のように扱われたことが屈辱的だったのだ。(P70)
これ、一見リュステムの言葉が正しいように思えるんですよね。それでもナクシュデルが言いたいことはそこではない。見世物には見世物としてのプライドがあり、それを尊重してほしかったということなんです。
ストーリーの中ではそれほど重要なシーンではないんですが、こういう何気ない「イラっと来る描写」をきちんと理由を含めて説明してくれるところがすごいんですよ。
(ここからネタバレ)
もちろんストーリーも面白かったです。今回の敵役、やり口がえぐすぎますけど正直そういうのも嫌いではないですね。悪役らしい悪役は好きです。
このオチ、ハディジェもある意味被害者なんですよね。いや、彼女自身に責任がないわけではないんですが、彼女をそういうわがままな女に育てた家庭環境や、甘やかしてばかりだったクレイシュにも大いに問題があります。少々やるせない話でした。
そして最後のリュステム父登場。厳しいことは言いますが、人徳者だということがわかる描写です。ナクシュデルとリュステムの関係には賛成していないものの、読者としては期待が持てる終わり方でした。