あらすじ・概要
教員になるために実習を行うこととなったナクシュデル。しかし派遣されたのは、とても寒冷な僻地の村だった。なぜ派遣されたのか疑問に思いつつも、ナクシュデルはその土地の子どもたちに文字を教え始める。しかし、初めての実地での教育はうまくいかないことも多かった。
恵まれた人間が「努力したら報われる」って言うのはやめろ
とにもかくにも、
「ほらね、頑張っている姿は、誰かがきっと見ていてくれるから」(P235)
というメッセージをよりにもよって女性の自立をテーマにした今作に持ってきたのがいけなかった……。
ネタバレになるから詳しくは省略しますが、ナクシュデルの今回の成功は元はといえば「リュステムに出会ったこと」から始まっています。ナクシュデルは努力してリュステムに出会ったんですか?
リュステムと恋をしたのは確かにナクシュデルの人柄がよかったからだと思いますが、普通の女の子にはリュステムみたいなかっこよくて優しくて能力のある男は現れません。それなのに「ナクシュデル個人が頑張った」みたいなオチになるのなんでやねん。
それともうひとつ問題があって……私は昔テレビでお年寄りに「今の若い人がうらやましいと思うことは何ですか?」と街頭インタビューしている番組を見たんですが、ある女性がこう答えたんです。
「そりゃあ女性も働けることだね。私も外に出て働きたかった」
この女性に「頑張ったら誰かが見ていてくれますよ」って言えます? 言えなくないですか? だって「そういう社会」じゃないからこの人は苦しんだんですよ。
頑張ることは誰にでもできますが、その頑張りを正当に評価してもらえるかは人脈と運が必要です。
そして、女性は長く差別によってそういう人脈を得られなかった。
ナクシュデルが評価されているのはリュステムその他優しい人たちに囲まれているからで、これでいきなりすべてを失って路頭に転がしたら評価なんてすぐに消し飛びますよ。
これでナクシュデルが今も貧しくて、苦労をしていて、祈りとして「頑張っていればいつか報われる」というメッセージをつけるならまだわかるんですが、こういう恵まれた立場で言われてもはあ? ってなりますよ。
……と、言うのは私がこの辺の価値観にめちゃくちゃ細かい人間だからであって、ただのラブストーリーとして見るのであれば特に文句をつけるところはないと思います。
自分の価値観に嘘はつけないからこう書いちゃったんですけど普通にエンタメ作品としてはありだと思いますよ!