あらすじ・概要
著者は精神科訪問看護の仕事をしている。精神疾患を持つ人々の家を訪ね、薬の管理をしたり相談に乗ったり、状況に応じて使えるサービスを紹介する仕事だ。彼女が出会うのは、さまざまな事情を抱えた患者たちだった。著者の経験をもとに、改変したフィクション。
優しく丁寧な精神疾患コミックエッセイ
経験をもとにしたフィクションということで、出てくる患者たちは複数の人のエピソードを混ぜたり身元がわからないくらいに改変して出しているのだと思います。しかしプロだからこそあって、出てくるエピソードにはリアリティがあります。
それでいて、語り口自体は優しく丁寧なので、つらいシーンがあってもそれほど悲しくならずに読めました。
著者自身が訪問看護の仕事にやりがいを感じているため、この仕事をやる上での何気ない嬉しさや、報われたと思う瞬間を描いてくれたのが嬉しかったです。当事者としては医療従事者の人たちに頼ってばかりの生活なので、向こうが「やっててよかった」と思ってもらえると自分としてもほっとします。
印象的だったのは境界性パーソナリティー障害の患者のくだりで、周囲を振り回しときに依存する患者に対して、主人公は負の感情を持ってしまいます。そういうときに、一緒に仕事をしている人が一旦主人公をその患者から外すのです。
境界性パーソナリティー障害の場合、患者に入れ込んではいけない、それは悪意であってもだ……という行動にちょっとはっとさせられました。境界性パーソナリティー障害については何かやべー人だ、くらいにしか思ったことがありませんでした。それでも訪問看護の仕事をしている人はあくまで彼女をひとりの人間として扱おうとしています。
自分にはない発想に目からうろこが落ちたし、こういう瞬間があるから他人の描いた作品を読むのは面白いなと思います。
みんなが主人公のように生きるのは無理だろうけど、精神疾患の人、またそれを支える医療や福祉の人々に社会の理解が深まるといいなと思っています。