あらすじ・概要
小学六年生の三人は、「人が死ぬところを見たい」という理由で、とある老人の家を覗くことにする。最初は老人は少年たちを疎ましがっていたが、徐々に親しみを覚え始める。少年たちが老人の手伝いをしたり、老人が少年のためにすいかを用意したり、四人は奇妙な友情をはぐくみ始める。
何気ない日常のやり取りに癒される
再読。「人が死ぬところを見たい」という題材そのものにはぎょっとしますが、内容としては丁寧な世代間交流の話です。
過去に傷を抱える孤独な老人と、まだ社会のこと知らない小学生3人組が、だんだんとお互いを思いあうようになります。
印象的なのは老人が子どもたちに戦争の話をするくだりでした。命の危険があって、自分自身も人を殺して……その過去は老人にとっても消化しづらいものだったのでしょう。子どもたちがそれに耳を傾けることによって、老人も少し安心したのではないでしょうか。
それから老人が故郷の近く出身のおばあさんに出会うところも好きです。そのきっかけは子どもたちの余計なお世話でしたが、久しぶりに話の合う同世代の人と出会って嬉しかったのでしょう。話が弾む描写にこちらもほほえましくなりました。
基本的に何気ない日常や言葉のやりとりでできているのですが、そういう何気ない交流がふっと心を楽にしてくれることがあります。その瞬間が随所にちりばめられているからこの小説は心地いいです。
しかもそのやりとりをする人々を、完全な善人ではなく、いいところも悪いところある人間として描いていきます。だからこそキャラクターを身近に、親身に感じて読めます。
導入以外は地味な小説ですが、しみじみ味わいのある作品でした。