あらすじ・概要
会社員の北條は、カジノでいかさまをしている少年、長見良と出会う。彼は北條の祖父竜五郎にマジックを学んだという。そして彼は、難読症(ディスレクシア)というハンディキャップを持っていた。彼の才能を生かしたいと思った北條は、マジシャンとしての良をサポートする。
厳しくも優しい人間観に支えられた作品
ディスレクシアの良に向けられる悪意や偏見が生々しく、読むのがつらいシーンもありました。しかし同時に、悪意を持つ人にも二面性があり、一言では説明できないような人生があることも示してくれます。
人間だからいいところも悪いところもあって当たり前、そういう人間同士が共存していくから社会なのだ、という人間観は現実味があって好きです。
描かれる悪意も善意も表面的ではなく、人間の内面に踏み込んだ描かれ方をしています。
また、主人公である良が偏見を持たず素直で、それゆえ頑固なところもあるという魅力的なキャラクターをしています。こういう人間がいたらつい応援したくなっちゃうでしょうね。周りも良の影響で少しずつ変わり始めるのが気持ちいいです。
良がマジックをしても悲しみや理不尽が解決するわけではありません。しかしマジックを通して、自分を振り返ったり前向きになれたりします。エンターテインメントにはそういう力があります。
混迷の時代にエンターテインメントは何ができるか、ということが描かれた作品だったと思います。
メッセージ性がはっきりしていて、刊行当時の政治ネタも取り入れられているので、好き嫌いが分かれるかもしれません。
でもそれを含めて面白かったです。