ブックワームのひとりごと

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育ちのいい老女と売れないお笑い芸人の、年の差と性別を超えた友情―矢部太郎『大家さんと僕』

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大家さんと僕

 

あらすじ・概要

一軒家の2階を間借りすることになった著者。1階には、大家として年老いた女性が暮らしていた。何かと「大家さん」に話しかけられ、世話を焼かれるにつれて著者と大家さんは仲良くなる。大家さんと街に出て食事に行ったり、力仕事の手伝いをするようになった。

 

社会の縁が薄い時代だからこそつながりの美しさを感じる

「事実を元にしたフィクション」ということで、どこまで本当かわからないところはありますが、それでもこういう関係がこの世のどこかにあったらいいな、と思える作品でした。

何かあったらおすそ分け、帰宅が遅くなったら声をかけてくれる。一見昭和のような関係性ですが、登場人物ふたりの気質のおだやかさによって、しつこくなくすらすら読めます。

年齢や性別を超えて、家族のような友達のような関係を作り、助け合う。社会の縁が薄くなっていく時代だからこそ、つながりの美しさをしみじみ味わいました。

 

大家さんの生活から見える東京のお金持ち文化も面白かったです。育ちが良く、(おそらく)夫も裕福だったんだろうなという大屋さんの持つ文化がすごい。

伊勢丹で頻繁に買い物をしたり、いいものを気軽に買ったり、何というか私の地元にはいないタイプのお金持ちですね。土地の差を感じます。

 

2巻目「これから」では大家さんが亡くなるまでが描かれます。少しずつ弱っていく大家さんを見ているのは悲しかったですが、「下り坂を下がる人からも学ぶべきことはある」という言葉にはっとしました。

著者と一緒に、親しい人が弱っていく哀しみ、それでも残る愛おしさを追体験した気がしました。