ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

縁側で泣く家族から読み解く、中心にはなれない人々の幸せ―宮部みゆき『小暮写眞館Ⅱ 世界の縁側』

このブログには広告・アフィリエイトのリンクが含まれます。

小暮写眞館II: 世界の縁側 (新潮文庫nex)

 

あらすじ・概要

幽霊の写った写真の真相を明らかにしたことをきっかけに、新しく心霊写真にまつわる調査を依頼された英一。今度の写真は、縁側で泣く家族の写真。しかしその調査に関して当事者に話を聞くことは禁止される。いぶかしみながらも、英一は写真の真実を追う。

 

コゲパンという女子が印象的

今回のMVPはコゲパンこと、寺内千春でしたね。色黒の家系で外国人に勘違いされるほどですが、本人は明るく振る舞っています。

その彼女が写真の真実を知ったときの大演説は、なかなか胸がすくものがありました。彼女の言葉がなければ読後感はとても悪いものになったでしょう。

そして彼女自身も正義の人ではなく、悩み、コンプレックスを抱えるひとりの少女だということが最後に明かされるところもよかったです。

人の業、そしてそれに伴う因果応報を描きながらも、勧善懲悪には終わらないところが安心して読めます。

 

今回の謎解きに関する感想は、コゲパンがすべて言ってくれたのでレビュワーとしてはあまり書くことがありません。

ただすべて読み終わったとき、「世界の縁側」というサブタイトルが胸に迫ってきました。

世界の縁側でしか生きられない人たちがいる。彼らは世界の中心に躍り出ることはできず、ささやかな日々を暮らし生きています。

でもそれが不幸というわけではなく、ほとんどの人が縁側に座っているのだとも思います。

 

劇的な展開はありませんが、しみじみと噛みしめるようなミステリーでした。