ブックワームのひとりごと

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魔者を倒せず、癒す退魔師が薬師の人外に拾われる―田井ノエル『おちこぼれ退魔師の処方箋 常夜ノ國の薬師』

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おちこぼれ退魔師の処方箋 ~常夜ノ國の薬師~ (マイナビ出版ファン文庫)

 

あらすじ・概要

退魔師の家系に生まれた咲楽。しかし彼女には退魔の力はなく、魔者を癒す力があった。癒しの力の代償に体に穢れを貯め込んだ咲楽は、常夜で暮らす魔者鴉に拾われる。薬師である彼は咲楽を「商品」として店に置いた。ふたりの奇妙な共同生活が幕を開ける。

 

ファンタジーだからこそできる話

お兄さんがかわいそうな未成年の女の子を拾う、という現実では問題のある設定ですが、お兄さんを人外にすることによってマイルドになっています。

咲楽を拾ってくれた鴉は、人間社会とは違う価値観を持っています。家族という概念が乏しかったり、倫理観がずれていたり。

しかし家族に疎まれ、周囲に虐げられ、傷ついてきた咲楽にとっては自分を受け入れてくれる鴉の存在がありがたかったのでしょう。咲楽は魔者たちとの交流によって自分を取り戻し、やりたいこともできました。

現実にはこんな交流はありえないでしょうが、ファンタジーだからこそ、人でないものたちを描いたからこそ持てるつながりは面白かったです。

 

後半に咲楽の双子の姉、神楽が出てくるのですが、彼女との関係もよかったです。

虐げられていた咲楽と、そんな咲楽が気になりつつも見ていることしかできなかった神楽。彼女らがお互い一歩踏み出して、少し距離が近づいて終わったのが救われました。

今すぐ仲良くなれるわけではないですが、これからに希望を持てる終わり方で好きでした。

 

劇的に面白いというわけではないですが、のんびり読むにはちょうどいい温度の作品でした。