ブックワームのひとりごと

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九州の炭鉱で働いていた人々が語る、生き延びるための物語―上野英信『地の底の笑い話』

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地の底の笑い話 (岩波新書)

 

あらすじ・概要

九州の炭鉱では、今では考えられないほど過酷な労働が行われ、多くの男女がそれに従事していた。仕事の合間に語られるのは、幽霊の話、怠け者の話、ケツワリ(脱走)の話。労働者がろくに守られなかった時代、使用者に支配される中で、生き延びるために語られた物語を取り上げる。

 

虐げられた人たちがしぶとく生きていた記録

昔の虐げられた人々の話をするとき、「一方的に権力に脅かされたかわいそうな人たち」と雑にまとめてしまいがちなのですが、この本を読むと一言で炭鉱で働く人々と言ってもいろいろあることがわかります。

もちろん低賃金で危険な仕事をさせられていたのは確かですし、今こんな働かせ方をしてはいけないのですが、それはそれとして、炭鉱の人々は炭鉱での文化を作り上げていました。

炭鉱での幽霊話から、上の人間をやり込めてやったという今で言うスカッと系の話、炭鉱での性の話。

著者は炭鉱で働いていた人たちに直に聞き取り、その文化を描きます。

極限状態の中の生き生きとした人の営み、過酷な環境でもしぶとく生き延びようとする人の姿には、ある種の美しさを感じました。

 

朝鮮から来た労働者や被差別部落の問題にも軽く触れており、危険な仕事、過酷な仕事に立場の弱い人たちがあてがわれて来ていた歴史を感じます。

今ではこういう働き方は肯定できませんが、時代の問題でそう働かざるを得ない人たちがいて、必死であがいて生きていたことを、覚えておきたいです。