『天盆』が面白かったのでこっちも読んでみました。
あらすじ
「量子病」という謎の病気に罹患した坂知稀。彼女は世界中のさまざまな場所に望まぬ形で瞬間移動するようになる。さまよう彼女は、そこでさまざまな人々に出会い、世界を知っていく。
祝祭資本主義という考え
「量子病」のほかに、この作品のテーマになっているのが「祝祭資本主義」。停滞してしまった世界経済のカンフル剤として、仮装行列や美術イベントなどの祝祭が何度も開催される世界です。
オリンピックや大阪万博の誘致の話を思い出して、ひやりとする設定でした。この世界もなかば、祝祭資本主義と化しているのかもしれない……。
終わらない祝祭の世界で、まれびとたる稀がさまよい、出会った人に何かをもたらしていく構図はある意味民俗学的で興味深いです。
祝祭があることによって、稀自身の「どこへも行けるけどどこにもいられない」感じが際立っていて、そこもよかったです。
SFとしては月並みの結論
しかし、稀の出した結論が、SFとして月並みなものだったのでがっかりしました。〇〇〇〇世界を否定するって言うのは、もうすでにいろんな人がやっちゃったネタなんだよなあ……。
オチが月並みでもそれまでの過程を楽しめればいいんですが、それもそこまでじゃなかったですね。
稀がさまざまな場所を点々とする短いストーリーをつなぎ合わせて作られているので、どうしても彼女の感情や考えに浸れず、結果的に彼女の出した結論にもぴんとこなかったのだと思います。
尖った作品ではあると思いますが、ちゃんと書きこなせていない部分が多かったです。その辺をもう少し詰めて考えてほしかったです。
まとめ
つまらないというほどではないんですが、ちょっと物足りない作品でした。
作風自体は好きなので、いつかまた同じ作家の本を読むかもしれません。