ブックワームのひとりごと

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犬による犬のための犬に満ちた小説 古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』再読感想

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ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

人生で五指に入るくらい好きな本です。久しぶりに読み返したくなりました。

 

あらすじ

第二次世界大戦中、キスカ島に取り残された4匹の軍用犬。彼らはそこから子孫を増やし、世界中に広がっていく。一方で、ソビエトが滅んだロシアでは、ある老人が、犬とともに何かを始めようとしていた。

 

倫理観にとらわれない犬たち

この本の最高なところは、犬が主人公なところですね。人間の物語もあるけれど、それはおまけにすぎません。

主人公が犬なので、人間の倫理観にとらわれず、自分の本能と欲望に従って行動する姿が本当に楽しいです。

私のお気に入りはアイスです。彼女(雌犬なので彼女)は飼われていた家から脱走し、野犬となってアメリカの街を恐怖させます。でもそこに悪意はなく、はっきりとした生存欲求だけがあります。それがすがすがしくて大好きです。

短いスパンで世代交代していくので、キャラクター(犬)も多いです。でもどれも個性的なので、すぐ覚えてしまいます。

 

そこかしこにある言葉の威力

あと好きなのは、リズミカルで威力のあるせりふ回しです。真似したくなるくらいかっこいいです。

「俺はこれから狂う」とベルカに言う。「そして、お前は生きろ」

(P387)

「あんたのこと、サイテーに嫌いだ。あんたみたいなの、日本語で露助っていう。死ね」

 老人は少女の言葉を反芻したかのように、日本語の音の響きを彼女に返した。

「シネ」

「ぼけ、あたしと会話してんじゃねえよ」

(p109~110)

こんな感じで「どうやったらそんなせりふが思いつくんだ……?」という言葉がぽんぽん出てきます。

音楽が好きな人に人気がある本というのも、わかる気がします。こんなリズミカルでハイペースな小説はそうありません。

 

まとめ

久しぶりに読み返すと、細部を忘れていて新鮮でした。

やっぱり何回読んでも面白い本です。また、細部を忘れたころに読み返したいですね。

 犬たちの物語が本当に楽しいです。

Белка, голос! (ベルカ、吠えないのか? ロシア語版)

Белка, голос! (ベルカ、吠えないのか? ロシア語版)

 
ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)