あらすじ
18年間コンビニ店員を続けていた女性、古倉。彼女はコンビニでしか生きていけなかった。そんな中、彼女のいるコンビニに白羽というアルバイトの男がやってくる。他人を見下し、周囲に攻撃的な彼と、古倉はある取引をすることになる
異常なのは彼女か周囲か
まず主人公の恐ろしさに震えました。
子ども時代は先生を黙らせるためにスカートとパンツを引きずり降ろし、作中の時系列では「結婚しろと言われ続けるのが面倒だから」と同棲を始め、自分や他人が侮辱されようといつもの調子を崩さない。
おそらくサイコパス(共感能力がない)人間なんだと思います。
でも、確かに主人公はヤバい女だけれど、コンビニ店員でい続ける限り、他の人に迷惑をかけているわけではないんですよね。
自分の食い扶持は稼いでいるし、穏やかな生活を望んでいるので進んで人を傷つけたいとも思っていません(持ち前のサイコパスっぷりで引かれることはよくあるけれど)。
そういう主人公を、家族や仕事仲間などの周囲は、「人と同じ人生を歩んでいないから」という理由で生活に干渉し、「正しい」人として型にはめようとします。
主人公は異常だけれど、じゃあ周囲は異常ではないのか。すべての人が「普通の人生」を歩むべきなのか。なぜ静かに生きているだけで人生に干渉されなくてはならないのか。
私も仕事先がお堅い業種に変わった瞬間に周りの反応が変わった経験があるので、この「型にはまる人を普通だと思う」という価値観は実感としてわかります。
そして、自分もなんとなく結婚している人、毎日仕事に行って稼いでくる人を、まともだと思いがちだなとはっとさせられました。
それは苦い気づきだったけれど、気づけて良かったと思います。
正直悪意を感じる作品で、10人いれば8人くらいは不愉快になると思います。少なくとも私はなりました。
しかしその悪意というのは日本の社会に、ひいては私自身に紐づいている。だからこそ、「悪趣味で意地悪な作品」とは言い切れなかったです。
まとめ
気味が悪くて悪趣味で意地悪な小説ですが、その不快感は自分自身と紐づいている、という読んでいてつらい作品でした。
でもそういうところが、この小説のすごさなんですよね。
あまり読み返したくない部類の本ですが、読んでよかったと思います。
悪趣味な本というとこちらもどうぞ。
ハードな悪行がつらい戦争小説です。