ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

文学

『ジョージ・オーウェル――「人間らしさ」への賛歌』川端康雄 岩波新書 感想

あらすじ・概要 『1984』や『動物農場』などの全体主義への批判を小説に書いたジョージ・オーウェル。彼の生い立ちや作家になった後の人生を語りながら、オーウェルの持つ価値観について考える。戦前・戦中、冷戦時代を生きた。ひとりの作家の激動の人生とは…

『サイダーのように言葉が湧き上がる』イシグロキョウヘイ 感想

あらすじ・概要 俳句が好きな少年、チェリーは、内気でなかなか自分の作品を声に出して発表できないでいた。そんな折、配信者のスマイルという少女と出会い、少しずつ親しくなっていく。しかし、チェリーは近いうちにこの町を引っ越していく予定だった。 き…

【なぜ私はカルトな世界を信じられないのか?】村田沙耶香『信仰』

あらすじ・概要 スピリチュアルな何かを信じられず、「現実」ばかりを見ている主人公は、「カルトをやらないか」という誘いに乗ってみる。表題作ほか、他者に馴染めない、どこか心ここにあらずな人々を描いた短編&エッセイ集。 全体的に「普通」に生きられな…

神々や動物が語る、アイヌの生活、信仰、世界観―知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』

あらすじ・概要 アイヌ民族でありクリスチャンでもあった知里雪惠は、アイヌの人々が歌い継いできた神謡をローマ字で表し、さらに日本語訳した。神々や動物たちが語る、アイヌの人々の生活、そして信仰や世界観とは……。

ピクミンで俳句を詠む、PTAの理不尽、NPCと友情を結ぶTRPG。最近読んだ、見た作品5つ(20211103)

【新発見】ピクミンは俳句とめっちゃ相性が良い〔ゲームさんぽ〕 ゲームをプレイしながら俳人に俳句を詠んでもらう会、ピクミン3編。 ピクミンの世界観がトンチキなので俳句のノリも若干トンチキ。俳句の「写生」や「解釈」の話も面白かったです。 しかし、…

皮膚科医の日常、本好きの学生、治安の悪い吟行。最近読んだ、見た作品5つ(20211030)

Eika『30歳からの人生設計 女の後半戦』 30代女性のためにお金のことを説明する本。 結婚=生活の安定みたいな発想で描かれているのは今の時代としてはヤバい。 ただ生活に必要な具体的なお金が書かれているのはよかったと思います。 30歳からの人生設計 女の…

創作を志す大学生たちが、芸術学科で俳句を学んで評価に一喜一憂―本田『ほしとんで』

あらすじ・概要 八島大学藝術学科に在籍している流星が入ったのは、ゼミの中でも特に地味な俳句ゼミ。しかし教授の指導や、個性豊かなゼミ生たちと交流していくうちに、俳句の面白さに目覚めていく。句会、吟行、連歌など、俳句ならではのイベントに参加する…

格差社会の中で語られるすっとぼけた労働文学―津村記久子『ポトスライムの舟』

あらすじ・概要 29歳のナガセは、工場で働いている。ある日自分の年収がほぼ世界一周にかかる値段であることを知ったナガセは、工場の給金を一年間丸ごと貯め、他の仕事で生活をすることを思いつく。表題作ほか、格差社会を描いた二編を収録した本。

かわいらしいデザインで読む短歌紹介本―東直子・若井麻奈美『短歌の詰め合わせ』

あらすじ・概要 和歌から進化していった「短歌」。その短歌を「食べ物」「動物」など身近なテーマごとに分け、イラスト、解説とともに一首ずつ紹介していく。そこには作者しか書き留められなかった喜怒哀楽、発見、アイディア、いたずらごころがあった。

「全部俺」の世界で共感や自己投影のおぞましさを描く―星野智幸『俺俺』

今日の更新は、星野智幸『俺俺』です。 あらすじ・概要 盗んだ携帯電話で何気なくオレオレ詐欺をしてしまった主人公は、それをきっかけに次々と「俺」と出会う。最初は三人だった「俺」は、次々に増殖していき、今や世界は「俺」だらけの世界に。自他の区別…

お転婆ヒロイン夏子がかわいすぎる純文学―武者小路実篤『愛と死』

今日の更新は、武者小路実篤『愛と死』です。 あらすじ・概要 小説家である「私」は友人の妹夏子に出会う。はつらつとして生命力にあふれた夏子に、「私」は惹かれていく。「私」はパリに渡ることになり、帰国後に夏子と結婚するという約束をした。洋行中に…

異常なのは主人公か、それとも世界か―村田沙耶香『コンビニ人間』

今日の更新は、村田沙耶香『コンビニ人間』です。 あらすじ 18年間コンビニ店員を続けていた女性、古倉。彼女はコンビニでしか生きていけなかった。そんな中、彼女のいるコンビニに白羽というアルバイトの男がやってくる。他人を見下し、周囲に攻撃的な彼…

プロのやる大真面目な二次創作―『高慢と偏見とゾンビ』感想【AmazonPrimeビデオ】

今日の更新は、『高慢と偏見とゾンビ』です。 小説の方の『高慢と偏見』を読んだら見てみたかった作品です。 あらすじ ゾンビが徘徊する世界。地主階級に生まれたエリザベスは、ビングリ―とダーシーという男性に出会う。エリザベスはゾンビを倒すことを第一…

現代人にも共感できる世知辛いロマンス―オースティン『高慢と偏見(下)』(光文社古典新訳文庫)感想

今日の更新は、オースティン『高慢と偏見(下)』です。 パソコンのキーボードがぶっ壊れたため、しばらくブログが書けませんでした。なんとか毎日更新を崩さずに済みました。 上巻の感想はこちら。 honkuimusi.hatenablog.com あらすじ ダーシーの告白を拒…

セクハラ親父が大学から放逐された末路―J・M・クッツェー『恥辱』感想

最近更新遅れててすみません。 今日の更新は、J・M・クッツェー『恥辱』です。 あらすじ 女生徒と関係をもって大学を首になった大学教授、デヴィッド・ラウリーは、娘の農場に転がり込む。だがそこでも、強盗に入られる事件があった。親子ふたりの状況は悪化…

時間ループと現代との類似性とこの先生き残るには 浅羽通明『時間ループ物語論』感想

久しぶりに評論系の本を読んで新鮮でした。そうそうこういう感じだった。 書籍概要 登場人物が同じ時間を繰り返す、時間ループ物語。古今東西の時間ループを紹介し、その傾向を分析。さらに、昔話や日本文学などの過去の作品から、時間ループの起源を探って…

源氏物語のキャラがゴシップ雑誌の投稿欄のようなセキララ告白 酒井順子『源氏姉妹(げんじしすたあず)』感想

この記事を読んで手に取ってみました。 紙の本では花のおしべの部分が箔押しでした。このデザイン笑うわ。 uzumaki-guruguru.hatenablog.com あらすじ 物語の中で、あまたの女性と浮名を流した光源氏。ひとりの男を通して棒姉妹(シスターズ)となった女性た…

短い文章で動物を描いたシンプルな本 ジュール・ルナール『博物誌』感想

このレビューを読んで気になった本です。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp 書籍概要 牛や豚、昆虫、鳥……田舎にいるさまざまな動物を、著者は短い文章で描き出していく。日常の中の自然を見つめる日記文学。

双子が戦争の中の街で悪行を行う アゴタ・クリストフ『悪童日記』感想

あらすじ 母親によって祖母に預けられた双子。おりしも国は戦争の真っただ中だった。彼らは生き延びるため、さまざまな訓練を積む。貧困と搾取と暴力のはてに、双子が選んだ結末とは……。

機能不全家族でどうにもならない悲劇が起こる ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』感想

光文社古典新訳文庫が個人的マイブームです。本当に読みやすいですね。 あらすじ 学校で、雪玉によって負傷したポールは、友人のジェラールによって部屋に運ばれる。そこには姉エリザベートとの閉じた世界があった。歪んだ関係の姉弟と、それにかかわった少…

エリート街道から脱落していくまじめな少年 ヘルマン・ヘッセ『車輪の下で』再読感想

あらすじ 猛勉強の末、神学校に合格した少年ハンス。しかし、神学校になじめず、評判の悪い友人とつるむようになる。ハンスは、ストレスにより行動もおかしくなり始める。やがて学校を去ったハンスは、故郷に戻ってくるが……。

空気が粘つくような暗い描写 田中慎弥『共喰い』感想

読みたいと思っていたけれどなかなか読めてなかった一冊です。 あらすじ 女性を殴る父親、そしてそれに似てきた息子を描く表題作、釣り好きの曾祖父の死を描いた「第三階層の魚」。二編を収録した一冊。

シュールなユーモアと絶望の合わせ技 パク・ミンギュ『カステラ』感想

あらすじ タヌキゲームにはまってしまったインターン先の社員、何でも入る冷蔵庫、宇宙人の襲撃を受けている農地……。ごく普通の日常にシュールな題材を交え、絶望とユーモアをもって人間を描き出す短編集。

ダメ人間だけど一部の人間にとっては強烈な魅力のある男 又吉直樹『火花』感想

ブームは過ぎ去った気がしますが、入手したので読んでみました。表紙は何の絵なんでしょうか。テーブルクロス? ただのうねうね? あらすじ 若手漫才師である「僕」は同じ漫才師の神谷に惚れこみ、師弟関係になる。神谷は笑いに対する純粋さは人一倍あったが…

子どもたちのためにフランスのホラー短編をピックアップ 平岡敦 編訳『最初の舞踏会 ホラー短編集3』感想

岩波少年文庫は、だいたいの図書館にあるのでとっつきやすいですよね。買うとしてもそれほど高くないし。 書籍概要 グロデスクなものから幽霊者まで、短編ホラー小説を子ども向けに翻訳・編集したアンソロジー。英米編に続くフランス編。

天才の生涯から発達障害を読み解く 岡南『天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル』感想

『発達障害のいま』で紹介されていた参考資料です。 honkuimusi.hatenablog.com 書籍概要 発達障害の人々は、普通の人とはとは違う認知を持っている。建築家のガウディと作家ルイス・キャロルを例に挙げ、「認知の偏り」が生み出す才能について語っていく。…

老いの悲しみを優しく描く 井上靖『補陀落渡海記 井上靖短編名作集』感想

あらすじ 生きたまま船に閉じ込められ、観音浄土を目指す表題作など、井上靖の名作短編を集めた一冊。

第二次世界大戦を生きた英国執事の栄光と悔恨 カズオ・イシグロ『日の名残り』感想

READING STYLEの企画「バースデー文庫」で入手した11月8日の本です。 【BOOK】当店オリジナルフェアの中でも展開当初から好評いただいているバースデー文庫。同じ誕生日の作家を本を読むきっかけにしてほしいという思いから生まれたこの企画。ご友人やご家…

文章の例外を例示しながら解説 石黒圭『「うまい!」と言わせる文章の裏ワザ』感想

文章術の本を読むシリーズその5。ちなみに「文章術 おすすめ 本」でググって調べています。 書籍概要 改行を入れる、カタカナ語を使いすぎない、表記ゆれをしない……などの文章のルール。しかしそれはいつでも当てはまるのでしょうか。例外的な表現を学び、…

コバルト文庫の歴史から少女小説の立ち位置を考える 嵯峨景子 『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』感想

TwitterのRTで回ってきて、「これ絶対好きだ!」と思いました。読んでみたらやっぱり好きだった。 書籍概要 少女小説の代名詞とも言うべきレーベル、コバルト文庫。本書ではコバルトの歴史をたどりながら、少女小説における表現の変遷を考えます。最近では刊…