今日の更新は、カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』です。
あらすじ
上海の租界で育った主人公クリストファー・バンクス。彼は探偵となって謎の失踪をとげた両親を探していた。あまたの難事件を解決して上海に戻ってきた彼は、そこで両親の失踪の真実を知ってしまう。
真実を知って少年は大人になる
読み終わってうなりました。こんなことってある!?
上海の租界で穏やかに暮らし、両親が失踪してからは寄宿学校で学んでいた主人公。
いくつもの難事件を解決し、名声を得て、両親のこともきっと見つけられると思っていた彼。けれど彼はそういう「物語」の中に暮らしているだけでした。
すべてを知ってしまったとき、彼は初めて租界でやっていたごっこ遊びを卒業して、「大人」になってしまいます。それが幸せなことだったのか、不幸なことだったのかはよくわかりません。
バンクスがこう考えるシーンがあります。
到着した時からわたしが大きな衝撃を受けていたのは、ここにいる誰もが、自分たちがどれほどの非難に値する存在かを認めることを拒否しているということだった。ここに来てから二週間ほど、地位の上下にかかわらず、さまざまな市民とかかわってきたが、正直に自分のことを恥じていると思われる人にはただの一人もお目にかからなかった。
(P273)
しかし彼も、その一員だと気づく瞬間があります。
自分が心底軽蔑していた存在と、同じものだったときの衝撃。その心情を想像すると震えます。
本の後半にならないと話が盛り上がってこないので、序盤を読むのは少しかったるかったです。しかし終盤の怒涛の展開で、今までの話はすべて必要なことだったのだとわかりました。すごいなあ。
本当に情け容赦がない。ひどい。「そんなつもりはなかった」とか、「仕方のないことなんだ」と言うことすら許されない話でした。こんなことってある!?(二度目)
読むとつらくなる話ですが、それでもとても面白かったです。
まとめ
本当に面白かったです。カズオ・イシグロは天才か?
また機会があったら、この著者の長編を読みたいです。
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,入江真佐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
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