ブックワームのひとりごと

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政治サークルの壊れていく理想―小野不由美『華胥の幽夢』

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華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)

今日の更新は、小野不由美『華胥の夢』です。

 

あらすじ・書籍概要

才の麒麟、采麟が体調不良を起こす。どうやら失道らしい……だが、采王のどこが間違っているというのだろうか。表題作『華胥』ほか、過去や日常をまとめた十二国記の番外短編集。

 

完璧な国では無能の生きる場所がない

『華胥』は十二国記の短編の中で一番好きです。

傾きつつある王朝の中で、王の相談役であり王の弟が殺害され、事態はミステリの様相に。

現代風に言うと「学生の政治サークルが政権を取った末路」ですね。昔読んだときは気づかなかったけれど、主な官吏を身内で占めているところがそもそも問題です。そしてそれに、政権側が気づいていないという。

 

砥尚は善良で勤勉な王ではあったけれど、やりたいことを現実にする才覚がなかったんですよね。不正をする官吏を首にして人手不足になったり、税金を下げすぎて公共事業がなりたたなくなったり。

 

王の弟馴行は、兄の施政を評してこう言います。

「兄の思い描く国には、愚かで無能な者の居場所などないんだ。官吏は全て道を弁え、決して私欲に溺れず勤勉で有能でなければならない。民は全て道を守り、善良で謙虚で、働き者でなければならない。そうでない者の存在など、端から織り込まれていないのだから。では、そうでない民はどこへ行けばいいんだ?」

(中略)

「それが兄の目指す国なら、私にとっては牢獄に等しい」

(P227)

 私はこのせりふが印象的で、ときどき思い出します。私自身もいい人になれなくて苦しかった人間なので。

しかしこう言う馴行はある意味優しいです。自分が愚かである自覚がなく、他者の愚かさを責める人は多いので。

 

それ以外だと、十二国記の風来坊ふたりがおしゃべりしている『帰山』も好きですね。長生きしたふたりが傾いていく柳を旅し、王朝の終わりについて語り合います。

こういうゆるっと会話をしているだけの短編が結構好きです。話の内容は全然ゆるくないですが。500、600生きてると王朝が滅ぶのをゆるく語れるんだな……。

 

まとめ

やっぱり『華胥』は面白かったです。馴行のおかげで思い入れのある作品になりました。

メインキャラたちの日常パートっていいですね。

月の影  影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

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