今日の更新は、三澤洋史『オペラ座のお仕事』です。
あらすじ・概要
オペラで合唱指揮者をしている著者。オーケストラ指揮者ががよく見えない合唱団のために指揮をするのが彼の仕事だ。表現を巡ってオーケストラ指揮者と戦ったり、海外のオペラ座でお国柄に遭遇したり。オペラを仕事にするということを舞台関係者から語るエッセイ。
合唱指揮者、世界の指揮者と戦う
まずこの本でオペラで合唱の指揮とオーケストラの指揮を別の人がやっているということを初めて知りました。でも確かにオペラのオーケストラって舞台の下にいるから、見えないよね?
合唱指揮者はそのままオーケストラの指揮をまねすればいいというものではなく、オーケストラの指揮を見て音楽を聴きながら微妙にタイミングをずらして指揮をしなければいけないそうです。大変だなあ。
面白いのが著者自身がオーケストラの指揮者と戦うべきときは戦っているところです。そもそもこの本は、ハンス=ペーター・レーマン氏の「次の音楽が始まってから女性たちが入場してほしい」と言い、それを作者が「できない」と答えるシーンから始まります。
よその指揮者の悪口を言う本なのかと思ったらそうではありません。「よりよい音楽を作るため」に議論を戦わせ、妥協と反論を繰り返しながら信頼関係をはぐくんでいく友情のほうがメインテーマです。
自分がどういう人間なのかを他人に知ってもらうための努力は惜しむべきではない。自分が何にこだわり、何をめざし、何を受け入れられないのか、はっきり示すことから人間関係を始めるべきではないかと思うのだ。
(P13)
オペラというきらびやかな世界であっても、作り手の側は泥臭く議論し汗をかきながらなんとか何かを作り出しています。でもだからこそ、オペラは美しいのかもしれません。
ここではむしろ安易に妥協する方が、芸術に対するリスペクトがないのでしょうね。本気の世界というものを見ました。
その他にも、海外のオペラ座の事情、著者が尊敬する指揮者のエピソードなどが書かれていて興味深かったです。
やっぱり自分が全然知らない世界の話は面白いですね。
『オペラ座のお仕事』まとめ
戦っている著者がかっこよく、また面白かったです。芸術を仕事にすることの難しさと楽しさにあふれたエッセイでした。
「自分の知らない仕事」に興味がある人には楽しめると思います。